「継ぐモノ」オンラインセミナー第3回
視野を広げて新たな可能性を!~事業承継の多様な選択肢~
① 後継者による第二創業のススメー
20代での親族承継を契機に社会課題の解決に挑戦する経営革新事例
中小企業庁の調査によると、後継者が経営者に就任する年齢はおおむね50歳程度ですが、後継者の多くは43歳ごろの就任が適当だったと回答しています。また、事業承継した企業の方が売上高や利益の成長率が高い傾向にあり、後継者が若いほど成長率が高くなっています。つまり事業承継は単なる経営者の交代ではなく、成長・発展の機会であることがうかがえます。
事業承継対策は相続税対策と捉えられがちですが、それは一部に過ぎません。事業承継においては、目に見えない経営資源、「強み」を継承することが特に重要です。後継者育成に必要な期間は、中規模企業、小規模事業者ともに3年から10年未満という結果が出ています。
親族内承継を契機に経営革新に挑戦している事例を紹介します。宮崎県日南市で鋼材の卸売商を営んでいる佐藤鋼材の代表、佐藤健太郎さん(26)です。佐藤鋼材は取引先の地元鉄工所の廃業が続き、売り上げが激減していました。そこで先代の父親がトランクルーム事業を始め、翌年にミニコンテナハウスの製造も開始しました。このタイミングで健太郎さんが起業しました。事業承継のあと、健太郎さんは地元の飫肥(おび)杉を使った移動販売車の製造、軽トラに載せるサウナの開発を行いました。自ら鉄工作業を学び鉄工事業の振興にもチャレンジしています。さらに祖父母の空き家を民泊で稼働させ、地域貢献活動として社会人サッカーチームを発足させました。B級グルメのテイクアウト店も開いています。
第2創業とは後継者が事業を引き継いだ際に業態転換や新事業・新分野に進出することです。第2創業はタイミングも重要です。既存事業が成長期・成熟期の間に新事業の種をまくことが大事です。衰退期に一発逆転を狙っても成功率は低いのです。
② オーナー経営者のための第三者承継(M&A)における
基礎知識と押さえるべきポイント
事業承継の形態の推移を見ていくと、昔は親族内承継がほとんどでしたが、現在は親族内承継と社内承継、第三者承継がおおよそ3分の1ずつになっています。
M&Aは「合併と買収」の略語です。合併には吸収合併と新設合併があります。どちらの合併にも、存続会社と消滅会社とが存在し、引き継ぐ財産を選択できないという共通点があります。相違点は、吸収合併では許認可や免許を引き継げますが、新設合併では引き継げないこともある点です。
買収とはある企業の経営権を手に入れることですが、事業譲渡と株式取得の二つがあります。事業譲渡のメリットは売り手にとって不要になった事業や資産を選んで手放せる点、買い手にとっては欲しい事業が取得でき、簿外責務の引き継ぎが不要な点です。デメリットは売り手と買い手双方に法人税や消費税、不動産取得税などの税金がかかる点、売り手側は手放す事業の従業員の同意が必要な点などです。
株主取得とは、ある会社が別の会社の株主から株券を買い取ることで別の会社を所有することです。株券1%以上の所有で株主提案権があり50%以上の同意で取締役の選任などの普通決議ができ、2/3以上の所有で定款の変更や合併の承認などの特別決議が行えます。会社売却のメリットは売り手にとっては事業が存続できる点、従業員の雇用が守られる点、オーナー利益が得られる点などがあります。デメリットは譲渡益に税金が発生する点、融合がうまくいかない点などがあります。買い手にとってはローリスクで事業拡大ができる点、技術やノウハウが取り込めることなどがメリットです。一方、従業員が離職する恐れ、簿外債務が発生する恐れがあるなどのデメリットもあります。
次にM&Aの流れについて話します。
準備段階として、売り手と買い手それぞれにニーズが発生します。これは買い手側には事業の拡大や経営資源の確保、売り手側には経営合理化や後継者不在の解消などでしょう。双方がM&A市場に打診しますがM&A情報は公開されていないことがほとんどです。そこで仲介業者とアドバイザリー契約を結びます。交渉段階では、トップ面談で双方の意向や疑問点を聞き合い、事業所の視察、譲渡条件などを盛り込んだ意向表明書を作り、その後基本合意を行います。買収監査(DD)も実施します。事業、財務、法務などの分野で監査し、いよいよ最終合意・最終契約になります。合併・買収後には経営統合作業(PMI)を行います。具体的には組織、規定、定款、人事、労務、財務などの分野において統合作業を行います。
会社を買う時の注意点です。(1)譲り受けた株式は、減価償却できません。(2)買収する会社の社員に事前に会うことできます。しかし情報漏洩のリスクなどもありお勧めしません。(3)買収後に取引先が離れることがあります。前経営者との個人的信頼関係が強かった場合などに起こることがあります。(4)買収したのに事業が引き継げないことがあります。社員の離反による大量退職や主要得意先の契約解除などが要因です。
さらに、(1)買収後に税務調査で追徴課税されるケースがあること(2)過去の製品の訴訟が発生するケースがあること、(3)企業文化、人事などは徐々に交流していくことが重要(4)コスト削減や売上拡大を急がないーといったことにも注意です。
会社を売るときの疑問と注意点です。(1)いくらで売れるのか―会社の売却は株式の譲渡ですが、中小企業の場合だと実際は売り手と買い手の交渉で決まります(2)では売れる会社はどんな会社なのか―事業内容や財務状況などで魅力のある会社です。自分の会社がどんな状況なのかを見極めておく必要があります(3)売った後の会社はどうなるのか―基本的には何も変わりません。変わるのは株主構成と役員構成です(4)社長はどうなるのか―通常は顧問や相談役の肩書きで1、2年残留します。理由は業務や人脈の引き継ぎ、得意先のフォローなどがあるからです(5)社員や取引先への告知はいつするのか―社員や得意先の反応でケースバイケースです(6)株主の一部が行方不明だがどうすればよいか―株式譲渡は100%が原則です。株主の取りまとめが難しい場合は株式譲渡ではなく事業譲渡を検討しましょう。
注意したいのはM&A詐欺です。またM&A仲介業者にも問題がある場合があります。M&A仲介業は不動産業と違って監督官庁がなく免許が不要で誰でもできてしまいます。質の低い業者もいるので、取扱い規模や専門性、報酬体系、アプローチの仕方などで見分けることが大事です。
繰り返しになりますが、事業承継は独断でやると失敗します。経営者仲間に相談し、親族と一緒に進めましょう。特に専門家に相談することが大事です。