「継ぐモノ」オンラインセミナー第2回
事業承継はどう進めれば良いのか?~公的機関の支援紹介~

① 「事業承継・引継ぎ 知って得する支援施策」

登壇者
中小企業アドバイザー

林 丈郎氏

事業承継は「経営の引き継ぎ」と「資産の引き継ぎ」に分けられます。今日話す支援策は、資産の引き継ぎに関係する内容が中心です。専門的かつデリケートな分野であるため、施策の内容に入り込みすぎず、全体像を把握することが大切です。

事業承継には親族内承継、従業員承継、第三者承継があり、それぞれのデメリットを低減する支援施策が用意されています。

まず法人の事業承継税制です。一般措置は、非上場株式等の相続税、贈与税の猶予・免除の制度です。後継者が亡くなる時まで相続税、贈与税の納税が猶予されます。さらに後継者が亡くなった後、猶予されていた相続税、贈与税が免除されます。特例措置は、一般措置と対象株数や納税猶予割合が変わります。大事なのは、特例承継計画を提出しないといけない点です。

続いて個人の事業承継税制です。これは法人版の特例措置と似ています。適用期限が法人版の特例措置と異なっています。

次にM&Aを行った場合の優遇措置税制です。要件として経営力向上計画を策定する必要があります。この税制を活用しますと設備投資減税を受けられ、準備金の積み立てができます。

法務面では二つの特例があります。一つは、相続時に発生する遺留分によって分散する事業の資産財産について後継者の負担を軽減する特例です。これには自社株式の分散を防止する除外合意、自社株上昇による遺留分負担の増加を防止する固定合意があります。もう一つの特例は所在不明株主に関する会社法上の特例です。株式会社が所在不明株主から非上場株式を買い取る場合、一般の制度に比べて早く買い取ることができるようになります。

その他、事業承継・引継ぎ補助金があります。インターネット等でチェックしてみてください。

今日話した内容は、事業承継の後工程に当たります。後工程をうまく進めるには、事業承継計画書作りなどの前工程が重要です。事業承継・引継ぎ支援センターなど、様々な支援機関が事業承継を応援しています。詳しくは支援機関にご相談ください。

② 大分県事業承継・引継ぎ支援センターの取組みと事業承継事例

登壇者
大分県事業承継・引継ぎ支援センター

センター長 上尾 光邦氏
サブマネージャー 栗山 浩一氏
エリアコーディネーター 岩崎 美紀氏

栗山氏 大分県事業承継・引継ぎ支援センターは、大分県商工会連合会が経済産業省の委託を受けて設置した公的な支援機関で、13人のスタッフがいます。

昨年度、県内911の事業者の事業承継診断を行いました。17年度からの累計診断件数は約18,000社です。そのうち239事業者に支援が必要とされ、エリアコーディネーターにつなげられました。

大分県の後継者不在率は22年度の事業承継診断の結果では約53%と高い比率となっています。事業承継には3年から5年かかるといわれ、年齢が高くなるほど健康上のリスクも大きくなり、円滑な事業承継の阻害要因にもなりかねません。当センターで支援中に、経営者が亡くなったケースもありました。親族内承継については、事業承継診断、事業承継計画の策定支援を無料で行っています。

22年度は三つの重点施策に取り組んでいます。一つ目は相談会の認知と機会を拡大させるために、「選べる相談会」として個別相談や出張相談など三つの相談会を実施しています。二つ目はメディアを使ったPR活動の強化です。三つ目は、県が主催する後継者育成プログラムなど大分県の施策と連携した「アトツギ」への支援です。

親族内事業承継支援について事例紹介1(有限会社明石文昭堂)

22年が創業95周年。ちょうどいいタイミングでオリジナル商品を詰めた「湯けむり文具函(ばこ)」を発売しました。集大成の事業ができたので事業承継する決意をしました。引継ぎ支援センターから専門家を派遣してもらい承継計画書を作成し、やらないといけない点が見えてきました。頭が整理できたという感じです。

岩崎氏 外部専門家を使って事業承継計画作りに着手すべきだと提案しました。計画策定のプロセスで将来的な展望、経営に関するさまざまな内容を共有できれば明石文昭堂にとってプラスになると考えました。打ち合わせを進めるにつれて当初は遠慮がちに見えた後継者から先代へ積極的に発言する雰囲気ができたように思います。補助金についても他市の事例などを踏まえて紹介しました。

親族内事業承継支援について事例紹介2(株式会社あま乃、旅館梅乃屋)

大分県豊後高田市で約100年続く梅乃屋旅館をやっており、息子が新規事業としてそば店をやりながら法人化し事業を継いでくれました。ずっと商売を続けてきたので、絶やさず続けてほしいという思いはありました。息子が商工会青年部で活動していて事業承継の話を聞いたのがきっかけで、専門家の支援を受けて事業承継計画書を作成しました。

岩崎氏 割烹旅館は新型コロナの影響で以前のような規模拡大が難しくなっており、事業展開の見直しが大きな課題でした。それで旅館・飲食に詳しい専門家を派遣しその知見を生かすようにしました。事業承継計画書の作成過程で母親から旅館の成り立ちや歴史、事業引き継ぎへの思いを聞くことで、後継者の息子さんの覚悟を固める後押しになりました。

上尾氏 親族内承継は100件あれば100件とも事情が違うため、同じ回答はありません。一番大切なことは、親子で承継する場合、先代経営者と後継者の事業に対する課題の発見、課題の解決に向けてお互いの思いをしっかりと話し合うことです。そのための設計図というべき事業承継計画の作成がポイントです。

事業承継後のアトツギインタビュー事例

株式会社後藤製菓代表取締役(5代目) 後藤亮馬氏

2021年7月に事業承継して1年5カ月がたちました。新規事業を始めたことからマスコミの露出も増え、大分県の事業に採択されて、銀行も積極的にバックアップしてくれる状況です。社員に聞くと「承継時点では会社が不安定だった」と話しますが、それは落ち着いてきたのかなと思います。一方、承継前に先代のポスト・業務を事前にきちんと決めておけばよかったという反省はあります。

承継後、生姜を軸にした「生姜百景」という新規事業をスタートさせ、現在はドリンクを販売しています。「生姜百景」は全国展開したいと思っています。一方で従来の菓子事業は廃番を作る作業も含めて整理し、生産体制の改善作業をしています。何を残して何を変えるかを見極めていかなければ、と思っています。

上尾氏 第三者事業承継支援では、事業を譲り渡したい人の場合(1)相談の申し込み(2)担当者との面談、登録(3)マッチング支援―という流れになります。大分県事業承継・引継ぎ支援センターを介して売り手と買い手が情報のやり取りをします。事業を譲り受けたい人の場合(1)相談の申し込み(2)担当者との面談、登録―までは同じですが、(3)ではセンターから後継者を探している企業の情報を提供し検討します。そのほか専門家の派遣、民間アドバイザリーの紹介(有料)、廃業支援も行っています。また、個人で事業を譲り受けたい人が登録する後継者人材バンクという制度もあります。

2023年1月11日〜2月10日配信のアーカイブ動画はこちら