「継ぐモノ」オンラインセミナー第1回
なぜ今事業承継が必要か?~事業承継の基本的知識~

① 「事業承継の現状と課題〜早めの準備でスムーズに引き継ぐ〜」

登壇者
中小企業事業承継・引継ぎ支援全国本部
プロジェクトマネージャー 

上原 久和氏

中小企業の社長の年齢は2000年だと50~54歳がピークですが15年には65〜69歳の年齢層が一番多くなっています。20年には60〜64歳、65〜69歳、70〜74歳とピークが分散しており、事業承継を実施した企業と実施していない企業とに二極化しています。一方、企業の休廃業・解散件数は20年で49,000社、21年で44,000社と高止まりしています。社長の年齢構成をみると、21年では約6割以上が70歳以上であり、休廃業・解散の要因が社長の高齢化であることがうかがえます。

休廃業・解散した企業に必ずしも事業性がなかったわけではありません。2020年までの状況では休廃業・解散した企業の6割以上が黒字でした。別の調査結果では、社長の年齢が若いほど新規事業への進出がみられます。社長の年齢が高く後継者がいない場合、借り入れを含めた新規投資が難しくなります。社長の若返りを図っていくことが新規事業を促進し日本経済を活性化するために非常に重要なことだと思います。 後継者不足は自社だけの問題ではありません。取引先が後継者に困っているケースも考えられます。全国の平均値で考えると、仮に取引先が100社あるとするとその4分の1の25社が後継者不在で廃業する恐れがあります。そのため、自社も含めてバリューチェーン全体で事業承継が重要になってきます。

さらに地場産業や地域のインフラにも大きな影響を与えています。例えばガソリンスタンドの数は1994年から半減しています。ガソリンスタンドは公共交通機関がなく自家用車が必要な過疎地にとってはインフラです。それが後継者不足で消滅しつつあります。

事業承継は、「コストをかけても会社の利益にすぐにつながらない」「企業ごとの個別性が高く他社の事例があてはまらない」などの理由で後回しになることが多いです。しかし、計画的に事業承継しないと親族間の争い、後継者が育たない、取引先との信用関係が難しくなってしまうなどのデメリットが生じます。

円滑な事業承継のためには、現社長と後継者の意識の共有や、事業の将来性・魅力の維持も重要になります。あるアンケートによると、事業承継に必要な時間は、「3年以上かかる」が5割以上を占め、小規模企業の方がより時間がかかるとの結果がでています。事業承継は計画を立てて早めに取り組む必要があります。

事業承継は、株式などの事業資産を移すだけではなく、ノウハウなどの知的資産を合わせて引き継がないとうまくいきません。企業が利益を生む価値源泉を引き継いでいく必要があります。

事業承継の選択肢には(1)親族内承継(2)役員・従業員承継(3)第三者承継(M&A)がありますがいずれも時間がかかります。中小企業庁から事業承継ガイドラインが出ており、円滑に進める五つのステップが書かれています。非常に役に立つのでぜひ参考にしてください。

② 「株式だけじゃない!同族企業の事業承継で必ず押さえるべき〝継承資産〟と失敗しないポイント」

登壇者
株式会社サイバーアシスト代表取締役社長
吉村酒造株式会社代表取締役会長(6代目蔵元)

吉村 正裕氏

事業承継は危機管理です。

事業承継には(1)親族承継(2)社員承継(3)第三者承継(M&A)の3パターンがあり、親族承継の中にも現経営者が健在なうちに行う「贈与」、経営者が死亡したときに行う「相続」、後継者が株式・事業を買い取る「売買」の3パターンがあります。いずれにも長所と短所があります。

親族承継について話します。同族企業の方が、非同族企業よりも株価が高く、収益性や安全性も優位という調査結果があります。

その理由の1番目は、経営と資本が同じでエージェンシー問題(経営者とオーナーの対立)がないことです。2番目は創業家による株式の安定所有です。株式の安定所有によって、3番目に、一貫した長期戦略が組めます。どうしても上場企業は短期的な業績を気にして、長期的な視点を持ちづらくなります。同族企業はすぐにリターンを求められることがないという話です。4番目は新型コロナの流行で表面化しましたが、迅速な意思決定、強力なリーダーシップが取れることです。

一方で企業の私物化、後継者問題、相続問題・お家騒動など、同族企業には弱みもありますが、強みと弱みは表裏一体です。

同族企業の一つである「老舗」についてお話しします。日本は老舗大国で、創業100年以上の企業数は日本が世界の40%を占め、200年以上の企業数は65%を占めています。なぜ老舗が強いかというと社会関係資本を代々継承・醸成していること、過去の失敗をもとにしたの家訓があること、理念・存在意義・らしさを表す「のれん」があることが挙げられます。変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高まっている時代、世界は静かに激変し、その中で生き残るためには守るべきものと変えるべきものがあります。

変革期の事業承継について失敗例と成功例を歴史上の人物で見ていきます。失敗例は武田信玄から勝頼への家督相続です。勝頼も父に劣らず優秀な武将でしたが、部下や周りを見ずに亡くなった父信玄と勝負してしまったため、急な変革に周囲がついてこられず内部崩壊してしまいました。成功例は徳川家康から秀忠、家光という徳川三代の事業承継です。家康と秀忠は引退後、大御所として現将軍と一緒に難題を解決しました。つまり段階的権限移譲を行い事業承継を成功させました。

最後に同族企業の事業承継について10の提言を私からさせていただきます。

―(1) 早急に代替わりの計画を立てましょう ―(2) 内外への意向・希望を明らかにしましょう ―(3) 一族のコミュニケーションを向上しましょう ―(4) 財務・税務の具体的な備えをしましょう ―(5) 株式を早急に後継者に譲りましょう ―(6) 経営ブレーンの世代交代を進めましょう ―(7) 未解決の懸念事項を解決しておきましょう ―(8) 変化を自覚し、親子で検討しましょう ―(9) 自分の人脈も継承しましょう ―(10)外部の専門家に助言を求めましょう

事業承継は独断だと失敗します。経営者仲間に相談することだけでもしてください。同時に親族とも一緒に進めましょう。自分勝手に進めていくと後で絶対にきしみが起きます。専門家にも相談してみてください。その際は必ず後継者と一緒に行ってください。この講演が専門家に相談するきっかけになり、皆さまが成功するのをお祈りしています。

2022年12月19日〜2023年2月10日配信のアーカイブ動画はこちら