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2023.3.2

一枚のチラシが導いた運命の出会い

玄関ドアや窓の取り換えといったリフォーム工事を手がける有限会社梅野硝子工業(福岡市早良区)。2代目社長が高齢となり会社のバトンタッチを模索していたところ、福岡県事業承継・引継ぎ支援センターのサポートでスムーズに得意先への第三者承継がかないました。同社長の不安や心配を払拭したのは一枚のチラシ。センターでも驚くほど短期間での承継について、関係者の方々に話を聞きました。

目次

(左から)アニィホームの石山真也代表取締役、梅野硝子工業の前社長、梅野信さん、 福岡県事業承継・引継ぎ支援センターの西田理恵子サブマネージャー、梅野硝子工業の藤﨑剛代表取締役(承継後、梅野氏に代わって新社長として就任)

有限会社梅野硝子工業 福岡県福岡市早良区賀茂1丁目5-15

―梅野硝子工業の概要をお教えください。
梅野信氏:1958年に富士ガラス店として創業し、74年に現在の社名に変更しました。創業当時はガラス関連の業務が主でしたが、現在は玄関ドアやサッシに加え、キッチンやユニットバス、トイレといった戸建て住宅全般のリフォームをしています。

―引き継いだアニィホーム株式会社は新築・リフォームや不動産販売を手がけ、もともと梅野硝子工業と取引関係があったそうですね。どのような印象がありましたか。
石山真也氏:仕事が早く丁寧で、とにかく良い印象でした。梅野さんとは高校の先輩・後輩という関係もあって得意先を紹介してもらうこともありましたし、慰安旅行に誘っていただくほどよくしてもらいました。

―新社長の藤﨑さんも、大手建材メーカーの社員という立場で梅野硝子工業と付き合いがあったそうですが、どのような印象を持っていましたか。
藤﨑剛氏:トラブルに直面した際、梅野さんだけでなく社員の皆さんが親身になって相談を受けてくれ、「思いやりがある会社だな」っていうのはずっと感じていましたね。またそれぞれのプロ意識が高く、長年培った技術力もあるので品質面でも安心していました。

相談できる公的機関があることを知る

―梅野さんはなぜ事業承継されようと思ったのですか。
梅野氏:大変な時期や苦労もたくさんあったので、息子や娘に継がせるつもりはありませんでした。廃業も頭をよぎりましたが、社員や世話になっている職人さんのことを考えると、そういうわけにはいかない。経営も軌道に乗っていましたからね。そこで金融機関に相談したところ、うちのような小さな会社でもM&Aができると分かりまして話を進めました。

―その後どうなりましたか。
梅野氏:相談をしていくうちに、手数料や成功報酬に「もったいない」と感じたのが本音です。でも会社を残すためでもあるし、仕方ないかなと諦めていた2021年の春先、一枚のチラシが届きました。福岡県事業承継・引継ぎ支援センターのことが書いてあり、無料で相談などができるとの内容でした。わらにもすがる思いで連絡し、そこからサポートしていただきました。

―センターはどのような支援をしたのでしょうか。
西田理恵子氏:まずは梅野さんが第三者承継で不安や疑問に思っていることを聞き、一つ一つ説明しました。何度かお会いするうちに、譲渡先が決まり、そこからはあっという間。本音を聞き出すために、梅野さん、石山さんそれぞれとお話する場を設けたのですが、もともとの信頼関係もあり、スムーズに話が進みました。
合意した内容は「トラブルを生まないためにも、形に残すことが大切」ですので、提携している弁護士を紹介し、通常よりリーズナブルな価格で契約書を作成していただきました(相談者負担)。 譲渡先が決まって譲渡契約まではわずか約5カ月。これほど順調に話がまとまることは珍しく、両社の運命としか言いようがないですね。

―石山さんにとっても第三者承継は初めてでした。不安などはありませんでしたか。
石山氏:センターの方が中立の立場でじっくり相談に乗ってくれ、安心して進められました。梅野さんが、大手建材メーカーの敏腕営業社員だった藤﨑さんを新社長として口説き落としてくれたことも大きかったですね。アニィホームは小規模で業務に追われているため、私が直接経営することはできませんし。

―藤﨑さんはどうして社長就任の要請を受けられたのですか。
藤﨑氏:いろんなことに挑戦できるのではないかという期待があったからです。当時働いていた大手建材メーカーのような規模の大きい会社は役割が決まっていて、もっと広い視野で仕事がしたいと感じていました。梅野硝子工業の良さは知っていましたし、転勤がなくなるということで家族の理解を得られたのも大きかったですね。

福岡県事業承継・引継ぎ支援センターが配布しているチラシ

地域に愛される企業を目指す

―引き継いだ後に何か変えたことはあるんですか。
石山氏:最初に話をいただいた時から、一番不安なのは社員の方々だろうと思っていましたし、だからこそ何も変えずにそのままスタートしたいと思っていました。藤﨑新社長がその通りに動いてくれているので安心して任せられています。

―梅野さんは承継後も、週2回ほど出勤されているそうですね。
梅野氏:仕事の流れや取引先の詳細などを約1年かけて藤﨑社長に話してきました。知識を吸収する能力が高く、人付き合いもいいのでもうそろそろ彼に任せていいかなと思っています。私自身がガラスだけの商売では駄目だと思い事業を広げてきましたが、その幅や深さをさらに拡大してくれるでしょう。

―5年後、10年後どのような会社にしたいですか。
藤﨑氏:会社のアピールポイントでもある、チームワークを生かした小回りの良さを継続、加速させたいです。そして事業規模を拡大するにはこれまでのB to Bだけでなく、B to Cが不可欠。そのためにも地域の人にも愛される企業を目指したいです。

経営のイロハなどを伝授している梅野さん(右)

継ぐモノへのメッセージ

―最後に、事業承継を検討している方にメッセージをお願いします。
梅野氏:当初考えていたよりも少ないコストで、スムーズに承継ができました。優良な中小企業が、後継ぎがいないからという理由で廃業するのはもったいない。センターは、例え小規模な会社であっても経営者の疑問や不安に全力で対応してくれるから、ぜひ相談に行ってほしいです。

石山氏:初めての経験でしたが、スムーズな流れで事業拡大し、仲間も増え、うちにとってはメリットだらけです。難しそうと敬遠されずに、挑戦する方が増えてほしいです。

藤﨑氏:このような事業承継が実現すると、私のような会社員だけでなく従業員の方にも経営に携われるチャンスが出てきます。今後もこのようなケースが増えることを願っています。

西田氏:今回は譲受企業が早めに決まったので、かなりスムーズに進んだ案件になりますが、特定の相手がいなくてもセンターで相手先を探せます。事業承継は人と人との関係性が重要になるので、思いもよらない方とマッチングして承継がまとまることも少なくありません。ぜひお気軽に相談にお越しください。

(取材・編集:2023年1月13日)

代表取締役
梅野 信氏

1960年、佐賀県東松浦郡生まれ。86年に有限会社梅野硝子工業へ入社。2002年代表取締役に就任し、2022年事業承継した。