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2023.1.24

地元のピンチに立ち上がった地域おこし協力隊員

宮崎県の漬物製造・販売業者と農産加工物販売所は、オーナーや従業員の高齢化により後継者問題に直面していました。そのピンチに立ち上がったのは、宮崎県都城市にIターンした地域おこし協力隊員。味や品質はもちろん、雇用までも守り、地元のピンチを解決しようとしています。「日本一星空の美しいまち」でキラリと輝く存在を目指す「ROPES(ロープス)」代表取締役の大内康勢さんに話を聞きました。

目次

株式会社ROPES 代表取締役
大内 康勢 氏

星の駅たかざき 〒889-4505 宮崎県都城市高崎町大牟田856-8

―大内さんは地域おこし協力隊をきっかけに宮崎県都城市に移住されたそうですね。
それまでの経歴をお教えください。

私は岡山県出身で、東京の大学を卒業後、不動産会社に勤めていました。2011年の東日本大震災では、お金があっても買えるものがない状況を経験。自分で食べ物を作る農家はすごいと実感して食に興味を持ち、いつか食に関わる仕事をしたいと思うようになりました。おいしいものイコール九州というイメージがあり、30歳を前に移住したいという思いが募りました。そこで情報を集めていたところ、地域おこし協力隊になれば市役所に所属して人脈をつくることができて、最終的にはその地域に定住して働く道があると分かりました。母の古里でもある宮崎県都城市で食に携わる協力隊の募集があり、3年間協力隊として活動しました。

―地域おこし協力隊としてはどのような活動をされたのでしょうか。
「高崎大牟田農産加工センター」で経営改善や商品開発、イベントの企画などをサポートしました。商品開発として最初に取り組んだ食材は、都城市高崎町の名産品である原木シイタケ。もともと廃棄していた軸の部分に栄養がありもったいないので、乾燥させて粉末にしたものを商品化しました。3年間で15商品ほどに関わりました。
イベントとしては、住民は年配の方が多く、なかなか遠出できないという声を聞き、北海道や大阪、京都などの物産展を行いました。旅行気分が味わえると大変喜ばれて、中でも北海道展には1日500人ほどが来場。1日の最高売り上げを記録しました。

―苦労したのはどんなところでしょうか。
初めのうちは分からない言葉が多かったですね。特に都城弁は薩摩弁に近く、例えば「びんたがよかっちゃねぇ」「よかにせっとが」と言われても、全く分かりません…。「どういう意味ですか」と聞き返したり、他の方に説明してもらったりして、今ではしっかり理解できるようになりました。

郷土料理や地元の味を次世代に継承

―19年12月に株式会社ROPESを設立された経緯をお聞かせください。
宮崎県内の別の市で地域おこし協力隊をしていた知人と2人でROPESを立ち上げました。宮崎県の中山間地域は高齢化と人口減少が顕著で、県内に約150カ所ある加工所がなくなっていく現実を目の当たりに。例えば、この近くで地域の郷土菓子を作っていた加工所も高齢化で2軒が閉まり、地元で伝わってきたお菓子が消えてしまいました。弊社では、地域で伝統のある郷土料理やお菓子や漬物などの加工品を次世代に継承することを目指しています。

―20年1月には高千穂町の漬物店「ひやくしようや」の事業を承継されたそうですね。
地域の良いものを受け継ぎたくて、宮崎県事業承継・引継ぎ支援センターに登録をしていました。するとセンターの方から、高齢で事業譲渡を検討していた「ひやくしようや」の話を聞き、オーナーに会ってブランドやノウハウ、仕入れ・納品先、備品などを譲り受けることを決めました。今はゴボウとニンジン、ダイコンの漬物を製造・販売していて、伝統の味を次につなげることができて良かったと思っています。基本的には地元の野菜を使い、九州のしょうゆとみそで作るので、甘めの味が特徴です。今後は無添加の漬物作りにもチャレンジしたいと考えています。

―さらに地元の農産物や加工品を販売する「高崎大牟田農産加工センター」を引き継ぎ、20年10月に「星の駅たかざき」としてリニューアルオープンしました。
「高崎大牟田農産加工センター」は、28年ほど前に地域の女性部と高崎町役場が主導し、国の補助金を使って建てられた施設です。女性部の方が農産物を加工し、町役場が販売していましたが、都城市と高崎町が合併した06年、事業協同組合という民間組織を設立。店舗のスタッフも雇用されていました。
しかし17年の時点で、従業員の平均年齢は73歳。私が協力隊として管理運営をサポートしていたご縁から、理事長に「ここを受け継いでもらえないか」と声をかけていただき、地域の味と雇用を守るために承継を決意しました。ほとんどの従業員の皆さんはそのまま働いていただくことにし、今は若手も雇用しています。

「星の駅たかざき」

「事業協同組合時代の組合員の方々」

都城農業高校と共同でドレッシングを開発

―引き継ぎ後、同センターはどのような状況でしょうか。
もともと協力隊として関わっていたこともあり、とてもスムーズに話が進みました。地元の方に長く愛されてきた店で、シイタケや季節の野菜が豊富にそろい、一番売れ筋の加工品は「ニンジンドレッシング」です。農業に関わる子どもを育てたいと思い、都城農業高校に声をかけて生徒たちと一緒に開発した甘酒ドレッシングも好評です。

―現在、契約生産者はどのくらいでしょうか。
今は約130です。もともと200くらいの生産者と契約していたのですが、高齢化の波には逆らえず、一時期は120ほどに。それまで高崎町を中心に生産者を集めていましたが、都城市内にエリアを広げてみると、少し増えたんです。今後もエリアを広げたいと思っていますが、遠くから持ってきてもらうのは大変でして。そもそも私が移住して来た17年に1万2000人ほどだった高崎町の人口は、今8000人ほどに減っています。

ユニークなPOPが目を引くディスプレー

仮契約や事前相談が引き継ぎの鍵

―「ROPES」をはじめ「ひやくしようや」や「星の駅たかざき」について、今後の展望を聞かせてください。
地元の食を通じて、都城をPRしていきたいです。一番の目標は、ここにある商品を全国に広めていくこと。そのために今、福岡や東京、神奈川の百貨店などに商品を売りに行っています。少しずつ認知されて、「この間もいましたね」「おいしかったよ」といった声を頂き、励みになっています。これからも全国で販売を展開していくつもりです。

―最後に、事業譲渡や譲受を検討している人や企業にアドバイスをお願いします。
事業譲渡のとき、相談できる相手がいると心強いですよね。私自身は悩みながらやったので、実際に承継した人に事前に相談できる機会があれば、積極的に話を聞いておくといいでしょう。
あとは、話を進める中で条件が変わらないように、最初に仮契約を結んでおくことも大切です。事業承継は、地元の人だけでなく、移住する人にとっても仕事を得るチャンスだと思います。興味があれば、しっかりアンテナを張って情報収集することをお勧めします。

(取材・編集:2022年12月5日)

代表取締役
大内 康勢氏

1982年岡山県岡山市生まれ。大学卒業後、大手不動産会社で勤務。2017年宮崎県都城市へIターン。19年に株式会社ROPESを設立、20年1月漬物店「ひやくしようや」を引き継ぎ、同年10月「星の駅たかざき」をオープンした。