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2022.2.10

120年以上続く醤油蔵、今も続く天然醸造の醤油造り!

丸秀醤油株式会社 代表取締役

秀島 健介 氏

祖父の言葉で家業を引継ぐ決意、父が元気なうちに家業を引継ぎ

 当社は、1901年に創業して以来、全国でも数少ない伝統的な天然醸造の醬油造りをおこなっています。
私は、長男であり家業を継ぐものとして育ってきましたが、高校生のころに「家で醤油を造っていることが格好悪い」と思い、家業と継ぎたくないと考えるなど、進路に迷いがありました。先々代である祖父は私の迷いに気づいていたようで、祖父が病気で亡くなる前に、私の手を力強く握り「会社を頼むぞ」と言いました。その言葉で腹をくくり、私はこの家業を継ぐことを決意しました。東京農業大学醸造学科に進学した私は、醤油造りの基礎となる「麹菌」について学び、就職した大手食品メーカーでは、営業やマーケティングのノウハウを学びました。父が元気なうちに家業を継ぎたいと考え、父が60歳の時、私は専務として30歳で入社しました。そこは、祖父の職場であり、父の職場であり、先代たちの想いがたくさん詰まっていました。

菌の息遣いを感じる醤油蔵

社長としての責任

 入社後は、製造や営業を含めた全ての業務を経験しました。2017年に父の健康面も考えて、37歳で代表取締役に就任し、家業を継ぎました。私が専務をしていた時は、父はなんでこんなやり方をするのだろう、などとわかり合えない部分がありました。しかし、父に代わり社長になったとき、父の気持ちがわかってきました。専務時代より、あらゆる方面で決断を下すことが増えてきましたから。社長になってからのほうが、父と仲良くなりました(笑)。社長になって最初にしたことは、会社が前向きに進めるように力を注げる体制作りを行うことです。具体的には、それまで製造、営業のトップは50代、60代でしたが、組織を見直し、若い30代にし、世代交代を行いました。

工場前での社員との集合写真

伝統的な醤油を広めたい

 今も変わらず天然醸造の醤油造りをしている蔵は、佐賀県では当社だけです。先代が守り続けてきた「天然醸造の醤油造り」。これを、当社の「強み」として正しく情報発信をすること。「家で醤油を造っていることが格好悪い」と思っていた私だからこそ、正しく情報発信をしていくために、ブランディングに取り組み、会社の方針を大きく変えていくことにしました。
 醤油は毎日食卓にならぶ調味料なのに、それがどうやってできているか知らないから、198円で売られている醤油と、その3倍くらいする当社の醤油の値段の違いが分からない。醤油造りの一連の流れをみてもらって、醤油ができるまで2年かかる、これが本来の醤油の作り方。一方で、198円の醤油は、単に、これとこれをまぜてできあがりますと目の前で違いを見せて、当社の作り方を認知してもらい、それを分かったうえで、選んでもらう。時間をかけて作られたものは、3倍値段もするけど、良いものと納得したうえで買ってもらう。
 当社が43年前に現在の場所に引っ越ししてきたときに、それまでは木桶で、醤油や味噌を発酵させていたが、プラスチックのタンクでの仕込みに変えました。小さいサイズの木桶だと、時間もかかるし、衛生的でもない作り方よりも、大きな容量で、大量生産、効率的なつくりかたの方が当時の時代にあっていました。木桶をやめても、作り方自体は変わっていなくて、それまで同様に天然醸造で作っていました。
 私が2017年に社長になった年に、木桶を新調して、木桶仕込みを復活させました。その時は、奈良県の吉野杉を使っていましたが、佐賀県産の杉での木桶造りを目指し、木桶の職人の方々と何度も脊振山に通い確認したところ、温暖な気候の佐賀で育った杉は、油分、樹脂が多くて、液漏れがしにくいことが分かりました。それからは、佐賀県産の杉で毎年1つ木桶を造ることを目標にしています。このように他社が真似できない醤油づくりをしていきたいと思っています。

天然醸造で発酵中の醤油

発酵には未知の可能性がある

 醤油を造る工程の中で、一番大事な工程が麹造りです。その技術を応用して、素材に新たな価値を見出す取り組みにチャレンジしています。
 例えば、大豆や小麦アレルギーの方は、大豆や小麦を原料としている醤油や味噌は食べることはできません。そこで、キヌアという穀物を麹菌によって発酵した食品を取り入れることにより、健康的な課題を解決していくこと。
 また、商品価値がなく、捨てられていた有明海のノリを発酵食品に替え、食べられるものに替えていき、環境問題を解決する手助けを行うこと。その他には、生で食べられない素材を麴菌によって、食べられるようになるなど、麹菌には解毒作用があることがわかってきました。発酵という未知の可能性を麹以外にもっと広げて、いろんな課題を解決する力が麹にはあると思っています。

丸秀醤油の看板商品となる二年熟成の「自然一醤油」

【アトツギへのメッセージ】
事業を引き継がないのはもったいない

 中小企業の社長は、人より大変かもしれないけど、自分がやりたいこと、自分がこうなりたいと思い描いている未来を、自分でつくることができます。苦労することもありますが、中小企業の社長でよかったと思います。普通じゃ経験できないようなことを経験させてもらっていますよ。会社の経営は、判断することの連続です。また、社員の数だけ、苦労も楽しみもあります。だからこそ、普通の人より濃い人生を送れると思っています。
 「中小企業の社長は面白いですよ!」

(取材・編集:2021年12月)

丸秀醤油株式会社 代表取締役
秀島 健介 氏

【略歴】
1979年生まれ。佐賀県佐賀市出身。東京農業大学で発酵技術を学び、卒業後は大手食品メーカーに7年勤務。2010年に丸秀醤油株式会社に入社し、2017年に社長に就任。地元小学校や県外に出向いて醤油・味噌作りのワークショップの開催や、佐賀のものづくりの文化と伝統を世界に向けて発信するため、県内11社で協同組合「SAGA COLLECTIVE」を立ち上げるなど、情報発信や販路拡大に精力的に取り組む。
【会社概要】
醤油・味噌その他食料品の製造販売業
丸秀醤油株式会社
佐賀県佐賀市高木瀬町西6丁目11番9号
http://shizen1.com
1901年に初代 秀島内蔵吉が佐賀市で醤油製造業「秀島商店」を創業。
1978年に現在の工場を新設し、同時に株式会社へ改組。2017年に6代目 健介が代表取締役へ就任。
昔ながらの天然醸造による醤油造りを守り続ける。醤油のほかに、味噌、たれ、ドレッシングなどの製造販売を行う。従業員数13人。