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2021.12.24

承継は早め早めに着手を

福岡県事業承継・
引継ぎ支援センター
統括責任者

奥山 慎次 氏

休廃業・解散する企業の95%は小規模事業者

 私からは事業承継の現状と第三者承継の事例ということで話をします。
 わが国の事業承継の現状です。中小企業の経営者の平均年齢が62.16歳。いろいろなシンクタンクの調査ではおおむね60歳を超えています。この高齢化を年代別の分布図で見ていきます。

 2000年だと50歳〜54歳が分布の中心で全体の20.3%がそこに入っていました。2005年を見てみると高齢化が進み55歳〜59歳が分布の中心で22.2%がここに入っています。さらに2010年は分布の中心が60歳〜64歳になっています。サラリーマンなら65歳定年の手前に来ています。2020年の場合は分布の中心が60歳〜64歳、65歳〜69歳、70歳〜74歳の3つにうまく分かれていますが、60歳以上の経営者は2000年では36.9%だったのが2020年では56%が占めており過去最大となっています。
 400メートルリレーに例えると、最初の100メートルの走者が次にバトンタッチする相手がおらず、最後まで1人で走ったというイメージです。走れればいいですが、どんどん速度が落ちていきます。速度が落ちるということは事業力が失われていくということです。
 人間いつまでも事業ができるわけがありません。「いつかは辞めたい」ということになります。企業の休廃業・解散件数を見ると、これは人に迷惑をかけずに清算することができるという件数ですが、2000年度は5万件弱の企業が休廃業・解散しています。福岡県の企業数は14万件、佐賀県は3万件です。この5万件がいかにわが国にとって大変なことか。こうならないためにも事業承継は早め早めにやらないといけないのです。さらにどの規模の企業が休廃業・解散しているかというと、95%が20名以下の小規模事業者です。小さな事業者ほど後継者問題で悩んでいるということです。また、60%以上の企業が経営的には黒字であるのに辞めています。中小企業が日本の経済を支えている中で、黒字で辞めていただくわけにはいきません。

経営者は、まずは辞める日を決めること

 事業承継はできれば親族間で行いたい、皆さんそう考える訳ですが、これも年々変わっています。1983年以前は93・6%が直系・親族間で承継が行われてきましたが、年々減ってきており、帝国データバンク調べでは、現状で67%は後継者がいないという結果になっています。実際に承継が終わった後のヒアリング調査では、親族間承継が52・7%だったのに対し第三者あるいは社員への承継が35・6%を占めて、両者が拮抗してきています。

 事業承継というとこれまでは税務的なことが大半の課題でしたが、最近は事業を継続した後にうまくいくのかというのが大きな問題となっています。経営のバトンタッチということですが、そこには見えるモノ見えないモノ含めた経営資源があり、それを整理して引き継がなければなりません。後継者が勝手に新しい経営をやるということでは、地域に根ざした経営はできません。その意味では資産の「見える化」をやったうえで引き継がなければなりません。さらに多面的に事業を磨き上げて後継者を応援していくのが現経営者の仕事となります。後継者は伝統を守りつつ、現代に合わせた経営戦略も導入しながら事業を発展させるということです。
 では、どのタイミングで事業承継を行うのでしょうか。日本の創業者の平均年齢は42歳です。30年経つと72歳。サラリーマンなら60歳から65歳で定年です。事業者はやはり70歳になると体も衰えてくるでしょう。自分がいくらキャッチボールをやる気があっても、相手がそのボールを受け取るかということもあります。そういう意味では事業承継は60歳〜70歳に準備を進めて、前面に後継者が出てくることで顧客のスイッチをうまくやらなければ事業の後継はできません。
 結論としては辞める日を決めるのが大事です。福岡県事業承継・引継ぎ支援センターではこれまで2500件の相談を受けていますが、辞める日を決めている人を支援しています。辞める日を決めていないと誰も支援ができません。ゴールを決めると、必要な条件が用意でき、スケジュールが立てられ、行動に移すことができ、結果が出始めます。当たり前のことですが「もっと早くに辞める日を決めれば良かった」というのが多くの経営者の反省の一番目に上がっています。辞める日は結果的に変わっても良いと思います。しかし、まずは決めないと何も用意ができないということはしっかり頭の中に入れてほしいと思います。

事業承継を円滑にする法律や制度について

 国は事業承継をスムーズに行うための施策を用意しています。経済産業省は2018年1月から10年間を事業承継集中期間と位置付け、企業に取り組みや準備をしてもらうような施策を講じています。事業承継の税制の特例は法人版と個人版があります。中小企業は、代表権と株式の半分以上を持って経営者として認識されます。株価が上がっていれば税金を払ってそれを取得しなくてはいけません。事業承継税制はこの10年に限って税金を猶予するというものです。法人の場合は株、個人の場合は事業用の土地や建物、備品等の資産が対象です。この税制を受けるためには計画書の提出が必要です。承認されると事業承継を実行に移すことができます。個人版は法人版より1年遅れでスタートしました。わからない場合はセンターにご相談ください。
 次に、経営継承円滑化法第12条1項についてお話しします。これは社員承継や第三者承継で個人が株式を購入するのにメリットがある制度です。一般的に個人が会社の株を取得するために金融機関が資金を貸し出すというのはなかなか困難なことです。しかし、この法律の適用を受けると円滑にいく場合が多いです。福岡センターでも4件手続きをして、すべて承認されて融資を受けています。
 親族承継を妨げる壁に、中小企業の場合だと企業とは別に代表者個人が代表者保証をもって金融機関から借り入れしていることが非常に多いことがあると思います。「そんな大きな借金を背負ってまで事業を継承したくない」と思われている方もおられます。これには代表者保証を解除するというやり方があります。2つあって、事業承継特別保証と経営承継借換関連保証です。それぞれ2億8000万円の枠があり合わせて5億6000万円の代表者保証を解除できる可能性があります。ただし資産超過であることや返済緩和中ではないことなど4つの条件があります。
 事業承継・引継ぎ補助金というのもあります。その1つ「専門家活用」という制度はM&Aをして事業を引き継ぎたいという人向けに、M&A専門家の費用を負担しましょうというものです。また、「経営革新」という制度は経営者の交代や事業再編・事業統合等の経営革新を行った企業への補助金です。
 福岡県事業承継・引継ぎ支援センターについて話します。センターは経済産業省の事業で福岡では商工会議所が受託しています。国の事業ですので相談は無料、秘密も厳守します。今年4月から親族承継、第三者承継、社員承継の3つをミックスして総合的な事業承継窓口として相談を受けています。全国には、東京に2箇所あるので計48センターがあり、皆さんの情報をデータベース化することであらゆるマッチングが行えます。親族承継においては磨き上げが必要になってきます。自分の会社を分析して承継計画を立案することから始まります。その手伝いをする専門家を無料で派遣しています。支援内容は4つあります。①親族承継の専門家派遣、②社員承継のセンター支援、③第三者承継はセンター支援とM&A専門家の支援、④経営者保証の解除、この4つの事業を担っています。平成24年2月の開設以来、第三者承継は約200件、相談も昨年は480件で過去最高、今年はすでに406件の相談を受けておりほぼ倍ペースです。新型コロナの影響もありますが、それだけ事業承継に取り組もうという企業が増えています。
 九州は各県に1箇所、計7地点にセンターが設置されていますので各県のセンターにご相談いただければと思います。

(取材・編集:2021年10月27日)