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2023.12.21

贈与税・相続税の負担を軽減する「事業承継税制」の仕組みをわかりやすく解説

後継ぎが自社株や事業用資産を引き継ぐときに発生する贈与税や相続税などの税金。事業承継を考えているけど、発生する税金が重すぎて後継者に引き渡すことができない……。そんな風に悩んでいる経営者に知ってほしいのが、要件を満たせば贈与税・相続税の納税猶予や、その納付免除が受けられる「事業承継税制」です。今回は、後継者の負担を減らす「事業承継税制」の仕組みや要件について解説します。

※この記事は、2023年11月時点の税制に基づいています。今後の税制改正により、事業承継税制や特例措置の延長・変更がある場合があります。

目次

税金の納付を猶予・免除する「事業承継税制」とは

「事業承継税制」には、非上場株式の引き継ぎを対象とした「法人版事業承継税制」と、土地、建物等の事業用資産の引き継ぎを対象とした「個人版事業承継税制」の2種類があります。

株式を保有する中小企業が事業承継を行う際、黒字経営を続けていると株式の評価が高くなり、贈与や相続にかかる税金も高額になります。そんな後継者の負担を軽減し、より円滑な事業承継を支援することを目的として「法人版事業承継税制」が設けられています。

経営承継円滑化法(中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律)に基づく認定等が必要で、「事業承継計画」を各都道府県知事に提出し、下記の要件を満たすことで税金の納付が猶予・免除されます。この要件が2018年に一部緩和され、非上場株式の100%が猶予対象となる10年間の特例措置が運用されています。

また、2019年度からは事業用資産(土地、建物、機械、器具備品等)を対象とし100%を猶予対象とする10年間の特例措置として「個人版事業承継税制」が創設されています。法人版の特例措置と同様に、「個人事業承継計画」を各都道府県知事に提出し、要件を満たすことで、100%の納税猶予が受けられます。

それでは「事業承継税制」の仕組みや要件について詳しく見ていきましょう。

「法人版事業承継税制」(一般措置)の仕組み

「法人版事業承継税制」のポイントは、現在の経営者からみて2代目経営者が事業の承継後に、贈与税や相続税をすぐに納付しなくても良いこと、また、条件を満たして更なる事業の承継(3代目経営者)を行えば、2代目経営者が納付を猶予されていた贈与税・相続税が免除されることです。

※3代目経営者への承継も経営承継円滑化法の認定を受けている場合、3代目に課される贈与税も納税猶予されます。

①1代目経営者が存命中の場合

2代目経営者に生前贈与した非上場株式(発行済完全議決権株式総数の3分の2が上限)にかかる贈与税の100%が納税猶予される。

また、2代目経営者が経営贈与承継期間の経過後に3代目経営者に事業を承継し、非上場株式を生前贈与した場合には、納税猶予されていた2代目の贈与税は免除される。

②2代目経営者の猶予期間に1代目経営者が死去した場合

2代目経営者が贈与税納税を猶予されている期間に1代目経営者が死去した場合、猶予されていた贈与税は免除となる代わり、1代目から2代目に相続があったものとみなして相続税を課税するが、このとき相続税の一般措置の適用を受けると、非上場株式(発行済完全議決権株式総数の3分の2が上限)にかかる相続税の80%が納税猶予される。

また、2代目経営者が経営贈与承継期間の経過後に3代目経営者に事業を承継し、非上場株式を生前贈与(一括贈与)した場合には、納税猶予されていた相続税は免除される。

<法人版事業承継税制の主な要件>
●先代経営者の要件
・会社の代表であったこと
・同族関係者と合わせて保有株式が50%以上かつ後継者を除いた同族内で筆頭株主であったこと
・贈与の時において、会社の代表権を有していないこと

●後継者の要件
・会社の代表であること
・同族関係者と合わせて保有株式が50%以上かつ同族内で筆頭株主となる(後継者が1人の場合)こと
・18歳以上であり、役員就任後3年以上が経過していること{贈与税納税猶予時の場合のみ}

●事業継続の要件
・5年間の事業継続
  ・代表者として8割以上の雇用維持
  ・贈与・相続した対象株式の継続保有
・事業継続期間は毎年1回、その後は3年ごとに届出書や報告書を提出

●対象会社の要件
・中小企業基本法の中小企業であること
・非上場会社であること
・資産管理会社に該当しないこと

「法人版事業承継税制」(特例措置)とは

2018年の税制改正では、「事業承継税制」に新しく「特例措置」が講じられました。こちらは「新・事業承継税制」とも呼ばれ、従来と比べて要件が拡充されて使いやすくなったことで注目を集めています。対象となるのは、2024年3月31日までに特例承継計画を各都道府県知事に提出し、2027年12月31日までに贈与・相続を行う場合。「一般措置」に比べて、下記の条件が変更されます。

※2023年12月22日に閣議決定された「令和6年度税制改正の大綱」で、法人版事業承継税制の特例措置に係る特例承継計画の提出期限が2年延長(2026年3月31日まで)されることとなっています。なお、本内容は、税制改正関連法成立後、令和6年度から適用予定です。

 参考:中小企業庁「令和6年度税制改正(中小企業関連)」(zeisei_leaflet_r6.pdf (meti.go.jp)

出典:『中小企業経営者のための事業承継対策』P.39から抜粋

法人だけじゃない!「個人版事業承継税制」とは

これまで事業承継税制の対象は法人経営者のみでしたが、2019年には個人事業者が事業用資産を引き継ぐ場合に利用できる「個人版事業承継税制」が設立されました。法人版の対象が株式であるのに対し、個人版では土地、建物、機械、器具備品などの幅広い事業用資産にかかる税金が対象となります。法人版と同様に2019年から10年間の特例措置であり、2024年3月31日までに各都道府県知事に事業承継計画を提出し、2028年12月31日までに行う贈与・相続が対象となります。個人版と法人版の違いは下記の表の通りです。

出典:『中小企業経営者のための事業承継対策』P.41から抜粋

事業承継をする際に必ず発生する贈与税や相続税。「事業承継税制」を利用して、納税の猶予を受けることで、後継者の負担が少なく、安心して引き継いだ事業をスタートさせることができます。まずは「事業承継税制」について理解を深めることから始めましょう。申請マニュアルや申請書類など、申請に必要な手続きの詳細は下記サイトをご確認ください。

・法人版事業承継税制「法人版事業承継税制(特例措置)の前提となる認定

・個人版事業承継税制「個人版事業承継税制の前提となる認定

参照:国税庁「事業承継税制特集