INTERVIEW

  • HOME
  • 愛すべき音楽スタジオの灯を消さないために “おんがえし”がつないだ理想的な事業承継

愛すべき音楽スタジオの灯を消さないために “おんがえし”がつないだ理想的な事業承継

創業から38年、オーナーの田山宏史さんが設立し、県内でも最大規模の音楽スタジオとして知られる有限会社BE BOP(福岡県粕屋郡)。音楽ファンから長く愛され、福岡の高いレベルのミュージシャン育成の一翼を担ってきたスタジオを受け継いだのは、かつての利用者でIT会社を営む福田剛さんだった。事業承継・引継ぎ支援センターなどのサポートを受けながら、理想の後継ぎを見つけた事業承継について伺った。

目次
(左から)ONGAESHI株式会社の福田剛社長、有限会社BE BOPの田山宏史社長、福岡県事業承継・引継ぎ支援センターの今永英二サブマネージャー

コンテナだった音楽スタジオを拡大

−社名は、田山さんがバンドでドラマーだった学生時代、ジャズのBE POPスタイルが好きだったことから付けられたそうですね。味わいのある建物からもスタジオに対する愛着を感じます。施設や事業について教えていただけますか?
地元のミュージシャンのためにスタジオを守り抜いてきた田山さん

田山氏:BE BOPは本館と別館からなる3階建ての音楽施設で、プロ仕様の設備を整えた音楽スタジオが10室あります。ここは、もともとコンテナだった音楽スタジオを私が1985年に譲り受けたんです。国道沿いの好立地と800㎡という広い敷地をいかして、音響設備のレンタル・販売、イベント企画など少しずつ事業を増やしながら、施設を増築し、今のかたちになりました。

ログハウス風の個性的な施設。風味堂をはじめ、黒木渚、クレナズムなど福岡に縁のあるプロのアーティストも多数通った

思いをバトンタッチできる後継者を

−2022年に事業承継を決めた理由は何だったのでしょう?

田山氏:コロナ禍で売上げが激減したことが一番の理由です。辞めようかと思っているときに、クラウドファンディングに挑戦して目標金額300万円を超えるくらい集まったこともあって、常連さんから「絶対になくさないで」とか、今、東京で活躍しているミュージシャンも「帰ってきたときの居場所、残しとってくださいよ」など、みんなから多くの激励やコメントをいただきました。私も還暦を過ぎて後継ぎが不在でしたから、BE BOPを継いでくれる人を探そうと思い立ちました。

−どのようにして後継ぎ候補者を探されたんですか?

田山氏:粕屋町の商工会から事業承継・引継ぎ支援センターを紹介していただいたり、SNSに投稿して呼びかけたりしました。とにかく、「このままの形態で引き継いでほしい」というのが私の第一条件でした。

−事業承継・引継ぎ支援センターで、サブマネージャーの今永さんがヒアリングを行ったなかで事業を引き継ぐ際の課題はありましたか?
丁寧なヒアリングから成約まで伴走者として、ふたりに寄り添ってきた今永さん

今永氏:福岡で最大級の設備で規模も大きかったですから、今までの事業レベルをきちんと引き継いでいただける方を探すことがミッションでした。他業種の事業承継と違って限られた業界ですから、まず経験者の方が少なく、マッチングする方を見つけるのは難航しました。方法としては、M&Aプラットフォームの利用や私どもの提携先等も通じて、幅広く探していきました。難航しながらも、候補者は何人か出てきました。お話していくなかで、スタジオを別の用途で利用したいという方もいらっしゃったりと、条件が合う方がなかなか見つかりませんでした。

−そんななかでマッチングした福田さんですが、BE BOPを継ごうと決心された理由を聞かせてください。
青春時代、利用していたスタジオで現在は自ら趣味のバンド活動も楽しんでいるという福田社長

福田氏:実は高校3年のとき、バンドを組んでいてBE BOPを利用していたことがあったんです。たまたま田山さんと私の間に共通の知人がいて、世間話で「後継者を探してるらしいよ」と聞いたんですね。そのとき心が動いたんですが、提示金額を用意するのも難しく……。しかも先に候補者の方がいて受け渡しの期限が来週に迫っている状態ということで、いったんは諦めたんです。

田山氏:私の知り合いを通じて、音楽関係の仕事をされている方にほぼ決まりかけていたんですが、最終段階でやり取りがうまくいかず結局はお断りしました。そこに福田さんが手を挙げてくれていたので、ぜひということで。このまま引き継いでくれることが一番の条件でしたから、金額も大幅に歩みよりました。

今永氏:福田さんも宗像の商工会を通じ当センターに相談をなさってありました。一時中断期間があったのですが、再度お話がいったときには、おふたりで私どものほうへ来ていただいて、互いの条件やスキームを確認し進めていきました。スタジオ設備や多大な備品関係をリストアップしてチェックを行っていきましたので、その算出に時間がかかりました。すべて確認し終えて契約書を作成する際は、提携している福岡県弁護士会を通じ、弁護士先生にしっかり作成していただきました。

“おんがえし”の気持ちで、ここからリスタート

−周囲もBE BOPの存続をすごく喜ばれたかと思いますが、2023年4月から福田さんが社長として経営に携わるようになってから苦労されたことはありますか?

福田氏:不動産の賃貸名義変更の際、敷金を用意するのに苦労しました。経営判断だけでいったら、将来の見通しが見えにくいこともあってお引き受けできなかったと思うんですよ。ですが、単純に「なくしたくない!」という気持ちが先に立って、ひとまず頑張ってみようと思っています。

今永氏:条件的にはお互い合意できるレベルとなったのですが、売り上げや損益の状況が未確定な面も多く何度も計画の見直しをされました。しかし館内には38年間分の写真や、利用されてきた方の思い出がたくさんあって、その思いをつなぎたい一心と前代表の田山社長との伴奏期間を通じ業績も必ず目標まで達成できるとのご判断に至ったのだと思います。福田さんは2019年にウェブ・ITサポート事業を行うONGAESHI株式会社を設立されていますが、BE BOPの事業承継もまさしく“おんがえし”というお気持ちを感じます。

サイン入りのポスターや写真がディスプレイされ、歴史を感じさせる館内
−これからの展望を聞かせてください。

福田氏:想定内ではありますけど、まだ経営目標には届いていませんのでお酒を出すようにしたり、3階の部屋の一部をYouTubeの撮影で使えるようにしました。将来的に資金ができたら、あくまでもBE BOPらしさを失わない程度に、例えばeスポーツの機器を入れるなど、今までスタジオを利用しなかった人を呼べる仕掛けをして盛り上げていきたいと思っています。また、以前実施していたスタジオ内でのライブ等のイベントも復活させていきたいですね。

田山氏:私も5年間はマネージャーとしてサポートしていく契約を交わしました。いろいろと営業をかけて、新規のレンタルイベントも増えてきて、やっと少し売り上げが上昇してきたのかなと感じています。

ともにドラマーという共通点でも絆が深まった田山さんと福田さん

継ぐモノへのメッセージ

−BE BOPを守りたい一心のおふたりの気持ちがマッチした理想的な引き継ぎだと思いますが、その思いや事業承継を検討している方へメッセージをいただけますか?

田山氏:福田さんにはもう感謝しかないです。私の気持ちは、お客さんのためにここがずっと続くことでしたから。福岡県事業承継・引継ぎ支援センターの今永さんにもいろいろとアドバイスを受けて、結果的に理想のかたちで残すことができました。

福田氏:私の知人で会社を買ったという方も事業承継・引継ぎ支援センターに相談に行って、繋いでもらったと聞いていましたし、私も安心して契約を交わせました。会社の譲受や引き継ぎを考えている方は、相談してみることで幅広いマッチングの中からいいご縁や機会が得られるのではと思います。

(取材・編集:2023年10月26日)

有限会社BE BOP 代表取締役社長
田山 宏史 氏
1958年、北九州市戸畑生まれ。九州産業大学デザイン科に在学中からバンド活動を続け、ツアーをまわるなど精力的に活動。その後、サラリーマンを経て、ドラマーとしてプロのミュージシャンのサポートを行う。福岡音楽祭でグランプリを獲得したのを機に、24歳のとき福岡市へ。前身の音楽スタジオを譲り受け、1985年、27歳のときに個人経営で有限会社BE BOPを創立し、2001年に法人化した。
ONGAESHI株式会社 代表取締役社長
福田 剛 氏
1983年、北九州市八幡西区生まれ。パソコン関係の仕事を経て、2019年、宗像市でウェブ、ITサポート事業を行うONGAESHI株式会社を設立し起業。2022年、有限会社BE BOPで実施していた、スタジオ事業・イベント事業等をONGAESHI株式会社にて事業承継した。
福岡県事業承継・引継ぎ支援センター サブマネージャー
今永 英二 氏
地元金融機関に勤務、法人営業部門を中心にコーポレートファイナンス・M&A・IPOなど多くの金融ビジネスに従事。その経験をいかし、2020年より福岡県事業承継・引継ぎ支援センターでサブマネージャーとして「事業の想いと志を未来へつなげたい」と業務をおこなっている。
会社概要
有限会社BE BOP(ビ・バップ)
福岡県粕屋郡新宮町上府北2-9-60
092-963-0895
音楽スタジオ運営
リハーサルスタジオ、楽器販売・委託販売、
各種楽器レッスン、楽器・アンプ・PAレンタル
イベント企画・制作