粉砕機メーカーの株式会社大橋(佐賀県神埼市)が、2022年の代替わりを経た後も積極的な海外展開を続け、成果を上げている。まだ35歳でありながらベテランぞろいの組織を率いているのは新社長の大橋由明さんだ。どのようにしてスムーズな事業承継を成し遂げたのか。新会長の立場から経営をサポートする父親の弘幸さんにも同席してもらい、秘訣を伺った。
幼少期から機械に親しむ
由明氏:弊社は私が生まれた翌年の1988年の創業になります。別の農業機械メーカーで働いていた祖父と父が、その会社の佐賀工場を買い取る形で独立しました。当初はゴルフ場の芝生を管理する「スイーパー」という機械をつくっていたと聞いています。
弘幸氏:あの頃はバブル期でゴルフブームの真っ只中にありました。会社の立ち上げ直後でもあり、早く軌道に乗せようと工場に出ずっぱりになりました。家にいる時間もまともに取れませんから、よくこの工場に息子を連れてきていましたよ。従業員たちも家族のようにかわいがってくれていました。
由明氏:会社の創業者である祖父も、ここでよく私と遊んでくれていました。製品の部品を使ってゴーカートを造り、私のおもちゃにしてくれたこともあります。こうしたものづくりの現場に幼い頃から接してきたため、成長するにつれて機械のことがどんどん好きになっていきました。
物心がつくころには「いずれは自分がこの会社を継ぐのだろう」と考えるようになっており、進学先もそれを前提に選びました。世界を舞台に仕事をしていくための知識を得たいと考え、大学では機械工学を学びました。
親子3代で海外志向
由明氏:幼いころから祖父に連れられてよく海外旅行に出かけていましたから。海外志向が高まりすぎて大学在学中に休学し、しばらくバックパッカーをしていました。インドやヨーロッパなど興味があった国々を巡り、たくさんの人たちとの出会いを経験しました。世界のどんな場所にも家族の生活があり、みんな食事をして学校で学び、子孫を残す。人間はみんな同じなのですね。国は違っても必ずわかり合うことができるということを実体験として学ぶことができました。
弘幸氏:彼の祖父、つまり私の父は、当初から海外展開に積極的でした。それを見て学んだ点も大きかったのでしょう。
今ではよくやったなと思うのですが、生産設備の購入費を少しでも抑えようと、1990年代前半の時期に中国で提携工場を探し回るということまでやったのです。中国行きの航空機はガラガラで、「どうしてこんな時期に中国に行くのですか」とメディアの取材まで受けました。 実は、私も若い頃はバックパッカーをやっていたのですよ。自分を棚に上げて子どもには「海外放浪なんてするな」と言ってはいたのですが。やっぱり血は争えません。
大学を卒業した後、事業承継するまでどのような仕事をしていたのですか。
由明氏:神奈川県にあった外資系メーカーの製造拠点で働いていました。7〜8年くらいは働くつもりでいたのですが、親会社の判断で工場が閉鎖されることになってしまいまして。希望退職の募集に応じるかたちで退職し、父が社長をしていたこの会社に再就職しました。当時はまだ28歳くらい。平社員の立場で展示会出展などの仕事をこなし、国内外の需要動向を見極めてきました。それから専務取締役を経て、社長のバトンを受け継いだのは2022年2月です。当時は34歳でした。
年上社員との接し方
由明氏:どんな社員に対しても敬語を使い、謙虚な態度で接するようにしています。特に、上から指示を押しつけるようなことは避け、相手の言い分をしっかり聞くスタンスを大切にしています。いろんな意見や要望が出てきますが、それを受け入れるかどうかの判断は後回しでもいいのです。どんなに忙しくてもまず相手の話をしっかり聞くこと。このやり方を守っているおかげで、互いに尊重し合う雰囲気をつくることができていると思います。
弘幸氏:私も同じ考えです。大切なことは従業員の考えをしっかり受け止めること。何か問題が生じたときにはまず情報をできる限り集めて、納得がいくまで担当者の話を聞き、一緒になって解決の方向性を考えていくことが重要です。問題が複雑な場合はより多くの人を集めればいい。関係部署を集めた話し合いの場をなるべく多く設けるようにアドバイスしています。
由明氏:実感として、一緒にアイデアを探した後は、従業員を信じて任せておいた方がより良い仕事をしてもらえるように思います。気を張っていろいろ指示を出したところで、従業員が面従腹背になってしまっては意味がありませんから。
佐賀ならではのメリット
由明氏:企業の数が圧倒的に少ないので、行政とより密に接することができていると感じます。公的機関が運営する展示会への出展や補助金の支給手続きなどもスムーズです。海外に広く展開できているのも、行政の手厚い支援があってこそだと思っています。
弘幸氏:2013年にジェトロがフランスで開いた展示会に参加したのを機に、ヨーロッパ市場の開拓が進みはじめています。弊社のブースを訪れた有力ビジネスマンとのつながりから、ヨーロッパでのネットワークが一気に広がったのです。
由明氏:造園が盛んなヨーロッパは粉砕機の需要が非常に高いです。特に、トラックの荷台に載せやすい小型製品は現地の消費者から重宝がられています。フランスに始まり、今ではスイス、イタリア、ドイツへと販路が拡大しています。
由明氏:人件費の安い東南アジアにも生産拠点を築こうと考えています。小型の製品はそちらに移管し、日本の工場は大型製品に注力していきたいと考えています。すでにベトナムの工場と提携する契約を結んでおり、6月ごろには小型2機種の委託生産を始めます。
弘幸氏:初進出のベトナムで勝手が分からないことばかりでしたが、中小機構から支援をいただけたことで契約までスムーズに進めることができました。現地の有力工場をリストアップするなど、提携先を探す段階からアドバイザーの方から丁寧にサポートしてもらえたのです。
由明氏:伸びしろの大きい海外の売り上げをこれから伸ばしていきたいですね。現在の海外売上は全体の1割くらいですが、あと3年くらいで3割には高めていきたいです。需要は確実にあると分かっているので、供給体制をしっかりさせれば十分に実現可能な数字だと考えています。
由明氏:今のところ海外に営業拠点はなく、オーストラリア在住の外国人社員が1人で海外営業を担ってくれています。自宅のあるオーストラリアから各国へと商談に飛び回っているというのが現状です。ヨーロッパや台湾が主な営業先になっています。海外の販売代理店は現時点で9ヶ国・地域に広がっており、しばらくは現在の営業体制を維持していこうと考えています。
役割が人をつくる
由明氏:普段の働きぶりが見えないわけですから、互いの信頼関係が重要になります。社員をパートナーとしてとらえ、目標達成に向けて尊重し合う関係を築くことが大切だと考えています。相手を信頼し、あれこれと細かく指示を出さないことです。成果さえ出してくれればそれでいいと思って大きく構えています。
由明氏:実は、もともとの私は人に任せるよりも自分でやってしまいたいタイプで、「一匹狼」のようなところがありました。役割が人をつくるという面もありますが、私自身、人間としての幅が格段に広がったと感じています。社員たちと目標を共有し、みんなで努力して組織を成長させていくということに大きなやりがいを感じているのです。
全国には事業承継を検討されている方が多くいらっしゃると思います。会社の規模や業種、ビジネスの中身は多種多様でしょうが、一緒に素直に学び、実践し、世の中をよくし続けていきましょう。
(編集:2022年3月、記事再編:2023年)
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株式会社大橋 代表取締役社長大橋 由明 氏
- 1987年 福岡県久留米市生まれ。大学卒業後、建設機械メーカーに勤務。2015年株式会社大橋に入社、2022年代表取締役社長に就任。
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株式会社大橋 取締役会長大橋 弘幸 氏
- 1956年 福岡県久留米市生まれ。大学卒業後、農業機械メーカーに勤務。1988年株式会社大橋を共同創業、取締役専務。2000年代表取締役に就任。2022年取締役会長に就任。
- 会社概要
- 株式会社大橋
- 佐賀県神埼市千代田町﨑村401
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