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父が始めたカー用品専門店を守りながら必要な人のために「福祉車両」を届けたい

父・野口和美さんが個人事業で立ち上げたカー用品専門店スピードハウス野口(宮崎市都城市)。創業41年、タイヤ販売・車の修理をメインに顧客を増やしてきた父親の後を継ぎ、2代目代表に就任した長男・野口俊和さんは、新事業として福祉車両の改造に着目、年々売上げを伸ばしている。現役の父とともに円滑に事業承継を進めることができた背景について伺った。

目次
(左から)スピードハウス野口の野口俊和新代表、前代表の野口和美さん、高城町商工会の若松健治経営指導員、スーパーバイザーとして若松さんをサポートした村雲重喜さん(現在は荘内商工会嘱託指導員)

親子ともども、好きな「車」が家業に

−初代はどのようにしてカー用品専門店を創業されたのでしょうか?

和美氏:幼い頃から車が好きだったこともあり、中学を卒業してすぐ、宮崎市内で車関係の仕事に就きました。その後、車の塗装業、ガソリンスタンドでの勤務、カー用品店でタイヤ交換といった修理業務を覚え、1982年に独立しました。

−おひとりで事業を始められて、長男の俊和さん、次男の正俊さんが戻ってこられるまでの間、大変なことも多かったのではないですか。

和美氏:高城町で小さい工場を一人で経営しはじめた頃は、営業に来たメーカーさんが「ここでほんとに売れるんですか?」と驚かれるくらいだったんです。ナビゲーションの交換や車の部品を変えるなど、できることは何でもこまごまと行ってきました。キャンペーンもいろいろ打って、少しずつお客さんがついてきて。商圏は車を取りに行けるくらいの範囲ですが、遠方のお客さんも多いんですよ。「他店に負けたくない」という気持ちでふんばってきたことが、この地域で生き残る秘訣だったと思います。

27歳のときにスピードハウス野口を立ち上げ、今も現役で仕事に励む父親の和美さん
−俊和さんは、そんなお父様の背中を見て育ってきたことが2代目として後を継ぐ決め手となったのでしょうか。

俊和氏:保育園に通っていた幼少期、まだ景気がいい頃で、タイヤメーカーがブランドのロゴを車全体に入れたデモカーをつくって、店舗に貸し出していたんです。スポーツカータイプで、父がその車で園の送り迎えをしてくれていた時期があったんですね。その姿が「かっこいいな」ってずっと心に残っていて、私も弟も車好きになりました。

父も色々大変な経験をしてきたこともあって、高校に進学するときには「お前は公務員になれ」と言われましたが、やはり車関係の仕事に就きました。その後、2003年に体調を崩した父から「戻ってこい」と言われたんです。大阪で板金塗装の仕事をしていた弟もその後戻ってきて、工場を現在地に移転・拡大しました。「家族みんなで店を守っていこう」という気持ちだったと思います。

24歳のときUターン。家業を手伝い、3年前に2代目代表に就任した長男の俊和さん

大事なのは家族で気持ちを確認し合うこと

−実家に戻り20年ほど経って、2020年に事業承継を決めた理由は何だったのですか。

俊和氏:もともと父が60歳になるときに体力的な理由で父から事業承継の話が出たんです。ですが、その頃は私が宮崎県商工会青年部連合会の副会長をしていたので、店を不在にすることもあり、ひと段落ついてからにしようということに。それで、役目を終えてそろそろということで、手順も何もわからないままに高城町商工会の経営指導員の若松さんに相談したら、すぐにスーパーバイザーの村雲さんと一緒にサポートしていただきました。

当時若松さんと一緒にサポートにあたったスーパーバイザーの村雲重喜さん

村雲氏:商工会では、さまざまな事業承継のパターンに合わせて、どんな工程を踏めばよいか、留意点を含めてスキームを用意しているんです。野口さんの場合は税務に関するものが多かったですから、そうしたスキームに沿って順々にアドバイスしていきました。

高城町商工会で経営指導員を務める若松健治さん

若松氏:親族内承継の野口さんの場合、弟さんもいらっしゃるので、俊和さんが継ぐことについて家族内での協議を事前に行うようにもアドバイスしました。

俊和氏:私が宮崎県商工会青年部連合会の会長をしていた2018年、国が事業承継を推し進める「全国事業承継推進会議(キックオフイベント)」が東京で行われたんです。そこから事業承継の話が周囲で頻繁に出るようになって、いろんな話を聞く機会が増えました。親子喧嘩をした、譲ってもらったら借金が発覚したといったことも聞いていましたが、うちは弟も納得してくれて。ただファイナンスの部分は両親が管理していたため、不明瞭でちょっと不安でした。その点は資産をどの程度どのように承継するかといったことを商工会に相談しながら家族間で共有していくことでスムーズに運びました。税金対策について相談できたのもよかったです。

−どのくらいの期間で承継されたのですか?

若松氏:期間で言えば半年ほどだったでしょうか。スケジュール感もスキームに沿ってアドバイスはしますが、ご相談される方のペースで進めますので、お仕事の都合や相談のタイミングが合わなかったり、多少スケジュールとはズレが出てくることもありました。

村雲氏:間が空くと、どうしても食い違いが出たりしますから、そこはなるべく間を空けずに進めることをアドバイスするようにしています。

商工会では、SNSの運用法やデータベースを活用するなど広報や販促の相談にも乗っている

福祉車両事業に夢をのせて

−俊和さんの代で、福祉車両の改造という新事業も始められましたね。

俊和氏:はい、自分で何か新しい事業をと考えていましたから、県の経営革新計画の承認を得ることを目的にしたんです。同業者の話を参考にしたいと、福祉車両の改造を事業にされて業績を上げられていた佐賀県唐津市と沖縄の各タイヤ専門店のオーナーに話を聞きに行ったんです。「自分もやってみたい」と思い、今までとお客さんの層が変わることもあって、まず父と弟に事前に相談しました。

事業承継補助金で改造した福祉車両デモカー。一般社団法人日本福祉車両協会の認定工場にもなっている

和美氏:私も、これからの時代、タイヤ販売だけでは大変になっていくだろうから何かしないといけないと思っていたんです。ですから、話を聞いて「やると決めた以上は頑張らないかんよ」と、応援しました。

−商工会では、経営革新計画のサポートも受けられたんですね。

俊和氏:事業を行うにあたって経営の向上の程度を示す数値目標やスケジュールなども相談しました。宮崎県の場合は、経営革新計画に補助金がついてくるんですね。その計画に経費も盛り込まないといけなかったので、何をしたいかを明確にして提出書類の内容を確認してもらえて安心でした。

−福祉車両の事業を通じて、嬉しかったエピソードはありますか?

俊和氏:国の事業承継補助金に採択され、白いベルファイアを改造し、デモカーとしてリフトやレバーなどいろんな装置を付けて展示したり、活用できています。初めて相談されたとき、これまで福祉車両の営業所は熊本や鹿児島にしかなく、宮崎に住む利用者の方が出向くのは大変だと伺って、皆さんのお悩みに応えたいという気持ちで励んできました。

事業を軌道に乗せるのは大変でしたが、SNSなどを利用して積極的に発信を行うことで、今は本当に必要な方々に認知されてきて、売り上げも伸びてきています。乗れる車でなく「自分が乗りたい車をカスタマイズして乗る」というお客さんも多く、愛車をはじめ外車の改造依頼もくるんですよ。弟は高齢者施設で使う福祉車両をメンテナンスする講習を受けたりしていますから、それぞれの得意分野をいかして父・私・弟の三本柱で頑張っていきます。

「日頃はなかなか言えないけれど、両親には感謝しています」と話す俊和さんと、息子たちの活躍を見守る和美さん

継ぐモノへのメッセージ

−ご兄弟で夢を仕事にできて、ますます事業の展開が楽しみですね。事業承継を検討している方へメッセージをお願いします。

俊和氏:親族内承継は、親からも子からも最初は切り出しにくいことかもしれません。私も追い出すみたいで嫌でしたから、父から言い出してくれるまで何も言いませんでした。うちみたいに家族仲のいいところだけではないと思いますが、いずれにせよ後を継ぐ方は、まず親御さんに感謝を伝えること。それから覚悟を持って事業承継に臨むことをおすすめします。

(取材・編集:2023年10月10日)

スピードハウス野口 初代代表取締役社長
野口 和美 氏
1955年宮崎県都城市生まれ。車好きが高じて15歳から地元のカー用品店など車関係の職に就く。タイヤ交換や塗装などの技術を学び、1982年6月に独立、スピードハウス野口を創業。
スピードハウス野口 2代目代表取締役社長
野口 俊和 氏
1979年宮崎県都城市高城町生まれ。高校を卒業後、隣町の建設会社に就職。その後、愛知県小牧市でカーボディの磨き・コーティング専門店に勤める。2003年、24歳のときにスピードハウス野口に入社。2020年、事業承継を経て代表取締役に就任。
荘内商工会 嘱託指導員
村雲 重喜 氏
山田町商工会を2015年3月に退職。スーパーバイザー派遣事業の一環で、若松さんを指導しながら、ともに野口さんのサポートにあたった。現在は荘内商工会で嘱託指導員を務める。
高城町商工会 経営指導員
若松 健治 氏
宮崎県商工会連合会に2014年に入職。高城町商工会に配属され5年目。
会社概要
スピードハウス野口
スピードハウス野口
宮崎県都城市高城町石山43-2
https://speedhousenoguchi.com
カー用品専門店・福祉車両後付け改造業