INTERVIEW

博多駅から新幹線で1時間半。人の往来が活発化する鹿児島市中心部で2022年4月、中小企業の事業承継を支援するSoFun九州が立ち上がった。運営するのは地元出身の元銀行マン、東郷和也さん(43)。投資ファンドにありがちな短期の利益追求はせず、対象企業の株式を永続保有して長期の成長を促す。「家業から事業へ」がキーワード。事業承継による地域活性化を目指す東郷さんに、高齢化する中小企業の現状や課題を伺った。

目次

既存の手法に限界感じ

−Sofun九州立ち上げられた背景を教えてください。

東郷氏:私は鹿児島で生まれ育ち、地元の銀行に就職。さまざまな地場企業の経営者たちと接してきました。

経営者たちの高齢化の問題は深刻です。元気なうちに事業のバトンをつないでおく必要性を強く認識し、M&A(合併・買収)にも積極的に携わりました。けれども、営利目的である以上、どうしても短期の結果を求めがちになります。地元に慣れ親しまれた中小企業が短期の売買を繰り返される度に、本当に地元経済の役に立てているのか疑問を感じていました。

自分なりの解決策を実行したいと考え、退職後に企業コンサルタント会社を自分で興しました。大きな潜在力を持った中小企業はたくさんありますが、古い慣習にとらわれて強みを発揮できていないケースが少なくありません。時代に合った経営に転換できるようサポートすれば、多くの企業の業績を改善できると考えたのです。

ただ、現実はそううまくはいきません。オーナー企業の多くは、業績改善の道筋が見えてきた段階で新たな課題が出現します。それは、経営スタイルが事業ではなく「家業」になってしまっているということです。

オーナー企業の創業者はどうしても「自分が育ててきた会社」という自負を持ちやすいものです。ともすれば、「会社は自分のもの」という錯覚に陥ってしまうこともあります。そうなると、業績が回復軌道に乗り始めたところで「利益を独占したい」という欲がわいてきてしまうのです。

「鍋ぶた構造」が課題に

−経営スタイルが事業ではなく「家業」になってしまうことで、どういった問題がありますか。

東郷氏:私がサポートした企業の中には、ある程度自分の報酬が確保できるようになったところで、必要な投資をやめてしまった経営者もいました。企業成長にブレーキがかかり、頑張った従業員たちには利益が行き渡らないという事態になってしまったのです。社内に不満が広がり、せっかくの成長の可能性も台無しになってしまいました。

このように経営者1人だけに権限が集中している組織について、私は「鍋ぶた構造」と呼んでいます。経営トップがふたの取っ手で、その下に従業員たちが並列に広がっている構造をなぞらえています。一般的な企業は、中間管理職に厚みのある「ピラミッド型」になっていますね。「鍋ぶた構造」は、組織全体を動かしているトップにもしものことがあれば、たちまち経営が行き詰まってしまうリスクを抱えているのです。

この状態はとても健全とは言えません。同じような事例を何度も経験し、会社の所有と経営を切り離す必要性を強く認識するようになりました。そして行き着いたのが、対象企業の株式を全て取得した上でサポートする現在の事業承継スタイルです。

コロナ禍で財務が悪化

−東郷さんが行き着いた事業承継スタイルへ経営体制を整えるのも時間がかかりそうですね。

東郷氏:九州には技術の伝承が欠かせない産業がたくさんあります。鹿児島であれば、仏壇や黒酢、畳などの産業です。いずれも経営者の高齢化が進んでおり、一斉に引退するような事態になってしまった場合、伝統産業が危機に晒されることになってしまいます。

こうした状況にあっても、多くの経営者が引退を決断できずにいるのが実情です。自分の人生をかけて育て上げた会社ですから、なかなか手放せないという気持ちは分かります。仕事一筋で生きてきて、第2の人生を描きにくいという事情もあるでしょう。ただ、躊躇している間にも、貴重な時間はどんどん過ぎていくのです。

コロナ禍が追い打ちをかけ、中小企業の多くは財務を傷めてしまいました。コロナ前から経営環境は大きく変化しており、一日も早く体勢を立て直す必要があるのです。遅くとも2〜3年のうちには有効な手だてを講じる必要があるでしょう。「家業」とも言えるこれまでの経営を改め、「事業」へと転換することが急がれているのです。

小規模ならではの難しさ

−中小企業の経営スタイルに関して知見が深いかとお見受けしますが、東郷さんにもそういったご経験があったのでしょうか。

東郷氏:私の会社「SoFun九州」は、全国の中小企業の事業承継を支援する「SoFun株式会社(本社:滋賀県)」のグループ企業で、九州全域をカバーする拠点です。SoFunの創業メンバーにはそれぞれ得意分野があり、私の強みは畜産関係に詳しいことです。

と言うのも、私は養鶏場の運営会社でも働いた経験があるからです。銀行を退職後、取引先だった会社に誘われて経営企画担当の責任者として勤務。畜産に関する知識と人脈はここで培われました。そして何よりも、中小企業の組織運営について考えさせられる経験になりました。

その会社は数百人規模だったので、従業員一人ひとりとの距離感がかなり密接でした。独特な社風で独自ルールも多く、ちょっとした指示を浸透させるだけでも一苦労です。当初は外部から来た人間を快く思わないプロパー社員も少なくありませんでした。

それでも、現場の従業員たちに動いてもらわないと効率的な運営はできません。経営方針を理解してもらうため、時には泥くさく、懸命にコミュニケーションを取りました。結果として売り上げを3割近く伸ばすことに成功しましたが、人に動いてもらうことの難しさ、同じ方向を向いてもらうことの大切さを思い知らされましたね。

5人の経営候補者を選抜

−実際の経験があったからこそのSoFun九州なのですね。現在のSoFun九州の状況を教えてください。

東郷氏:現在、書類選考や面談などで選抜した30〜40代の5人が、事業承継の経営者候補として待機しています。サラリーマンとして優秀で、人間性も申し分ない方ばかりですが、人間くささが求められる中小企業経営にどれだけ対応できるのかは未知数です。

実際の経営ではさまざまな困難が生じるでしょうが、自分たちの地域を良くしたいという思いや地元への愛情が、乗り越えていくための原動力になります。候補者たちはみんな地元への強い愛着を持っており、しっかり舵取りしてくれるものと確信しています。現在、面談を繰り返しながら経営者としての心得を伝え、覚悟を促しています。

もうすぐ福岡市で第1号となる事業承継が実現できそうです。助走期間としてまずは私が経営を担い、軌道に乗せてから候補者5人のうちのいずれかに引き継ぐつもりです。来年の春までには5人全員が経営者としてスタートできるようにしたいと思っています。

−最後に、地域に根ざす事業承継を促すSoFun九州の立ち上げをとおして、東郷さんより皆様へメッセージをいただけると嬉しいです。

東郷氏:中小企業を立て直すことは、地域の雇用を守り、経済を活性化させることにつながります。やりがいの大きい仕事です。大企業にはない魅力を知ってもらい、「中小企業を承継してリーダーの役割を果たしながら企業を成長させていくのってかっこいい」と考えるような若い世代をどんどん増やしていきたいですね。

(編集:2023年2月、記事再編:2023年)

SoFun九州株式会社 代表取締役
東郷 和也 氏
2001年4月 地方銀行入行
2016年10月 事業会社(養鶏)実務トップとして経営
2019年12月 スタトバ株式会社を設立
2022年4月 SoFun株式会社取締役、 SoFun九州株式会社代表取締役就任
会社概要
SoFun九州株式会社
鹿児島県鹿児島市照国町14-23 佐土原ビル202号
http://www.so-fun.co.jp/
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