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2024.03.19

「あの頃は若かった」はじめてビジネスを意識したオーストラリアでの体験記

これは私がオーストラリアを訪れた際に日本とのビジネスの違いを肌で感じた体験記です。事業の売買が頻繁に行われることや、現地で一定以上のM&Aを行う「投資移民」が多いことなど、代々1つの事業を長く育てることが多い日本とは全く異なる文化に触れることができました。今回は、私がビジネスの様々な選択肢を強く意識するようになったオーストラリアでの学びを紹介します。

目次

もう四半世紀も前、私は会社を辞めて一年半ほどオーストラリアを転々と旅していました。当時は技術系の業務に就いていて、M&Aというものから少々遠いところにいた私が、それをはじめて客観的に見ることができたのは、彼の地でビジネスの売買が頻繁におこなわれていることを目の当たりにしたからです。

オーストラリアの投資移民

オーストラリアは移民の国で、少なからず日本人も移住していました。加えて、留学生やワーキングホリデーで一時滞在している日本人も多いので、彼らとの情報交換を通してそれなりに生活していける情報は入手できました。
そのうち、数人の移住した日本人と知り合う機会がありました。彼らは「投資移民」という永住ビザを獲得して移住していました。「投資移民」とは、現地で一定額以上のM&Aを行うことでビジネスビザや永住ビザが発給されるというもの。移民や外国人労働者の受け入れをしている国々では一般的なシステムです。

画像①「私が住んでいた近所の街角~シドニー」

大企業が非常に少ないオーストラリアでは、中小企業が内需を回しています。そして、あらゆる業種の中小企業、個人事業がM&Aの対象となっています。街角のパン屋さん、総菜屋さん、タバコ屋さん、大工や左官業、自動車修理業など、ありとあらゆるビジネスが頻繁にM&Aされ、第三者に引き継がれていました。


実際、私が現地で出会った日本人移住者(もとはサラリーマン)は、ハウスクリーニングの事業を買って移住したとのことでした。オーストラリアの生活習慣は、海外ドラマなどでよく見るように絨毯引きに土足で上がるというのが一般的です。したがって、定期的にプロの掃除屋さんにクリーニングを依頼します。もちろん、日本と同じく中古住宅の取引にあたっての清掃という需要もあります。ビッグビジネスにはなりにくいですが、比較的手堅いビジネスです。日本人特有の丁寧さ、細かな気配りなどで、ビジネスを数年かけて育てていました。


別の方は、違う業種ですが同じように移住して事業を買い、育て、投資額以上のリターンが出るところで売却し、シドニーから別の町に引っ越していきました。このように、商売に疎く一消費者に過ぎなかった私が「ビジネス」をはじめて意識したのは、まさに事業承継に関する話だったわけです。

ビジネスに対する姿勢

また、併せて聞いたのは、多くのオーストラリア人の目指しているライフプランは、事業を売買しながらより大きなビジネスへと発展させ、50代には引退して、悠々自適の生活を送るというものです。車、家を買ったら次はヨットを買ってゆったりと過ごすことに憧れるそうです。事業を売買しながらビジネスを大きくしていこうとするオーストラリア人の話を聞いて、経営者・実業家というのは同時に投資家でもあるとの認識を持つに至りました。すなわち、オーストラリアでは、経営者が事業の高付加価値化、企業価値の向上を図る姿勢が顕著であり、私はドライにリターンを追求することの大切さを感じました。
さらに、後々この体験から私のなかで導かれた仮説は、どんな業種や事業であっても、経営・ビジネスの本質は大きく変わらないのではないかということです。オーストラリアのM&Aの考え方、事業を売却して引っ越した日本人移住者のことを考えても、必ずしも同じ業種を引き継いでいるわけではないからです。

画像②「通りがかりの景色~ブリズベン」

選択肢の広がり

経営者の高齢化や、アフターコロナの過剰債務問題などにより、事業承継の必要性があらためて叫ばれていますが、そもそも自身にとって事業とは何なのかを考えてみるというのも良いかと思います。オーストラリアで活発な異業種間のM&Aによって「ビジネス」を意識した私には、代々同じ職業を引き継ぐことが多い日本のビジネス、事業承継のあり方は、選択肢が狭く、機会を逃しているようにも映ります。しかし、時代は変化し、様々な価値観が容認されるようになっています。また、情報技術の進歩も見逃せません。
このコラムによって経営者の方々に事業承継について様々な選択肢があることに気づいていただきたいと同時に、どんな経営をしていきたいか、どんな人生にしたいかをじっくり考えてみるきっかけとなれば幸いです。


画像③「若かりし日のわい~メルボルン郊外」

中小機構九州本部 中小企業アドバイザー
林 丈郎 氏(はやし たけろう)
中小企業診断士、キャリアコンサルタント、宅地建物取引士
大手運輸会社系のシステム開発会社勤務から不動産金融の業界に転身。その後、中小企業診断士として企業支援に従事するようになり、2018年に独立。個別の企業の支援のほか、自治体の中小企業支援プロジェクトのマネジャーなどを務める。