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2024.02.02

九州の市町村における事業承継支援の取り組み状況を調査。自治体による事業承継支援の現状について

独立行政法人中小企業基盤整備機構九州本部、九州経済産業局及び九州各県の事業承継・引継ぎ支援センターは、2023年11月に九州地域の全233市町村を対象に、各市町村の事業承継に係る目標設定、支援体制、取り組み、実績に関するアンケート調査を実施し、191市町村から回答を得ました。その調査結果を踏まえ、自治体による事業承継支援の傾向と課題を考察します。

【調査概要】

  • 調査期間:2023年11月 上旬〜11月30日
  • 調査対象:九州233市町村
  • 有効回答数:191(回答率 81.9% )
  • 調査方法:郵送にて調査票を送付
  • 回答方法:インターネット、FAX、メール
  • アンケート結果:調査全体の結果はこちら
目次

市町村における事業承継の課題認識

まず、各市町村において、総合政策やまち・ひと・しごと創生総合戦略等などに事業承継についての「対策を明記しているか」という設問では、「対策を明記し、数値目標を設定している」「目標はないが対策は明記している」と回答した市町村の合計が50.2%だったのに対し、「(対策も)記載していない」との回答は49.2%でした(未回答1%)。

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「対策を明記し、数値目標を設定している」「目標はないが対策は明記している」と、対策を明記している市町村が半数を占めていた

また、この数年間に事業承継問題を認識する機会については、「事業承継課題を認識する機会があり、施策に反映した」と回答した市町村は26.2%にとどまっています。上記の総合対策等に「対策を明記し、数値目標を設定している」「目標はないが対策は明記している」と回答した市町村においても、その39.6%にあたる38市町村で「施策には反映していない」と回答しており、課題と目標はありつつも、具体的な施策実施には至っていないことが示唆されます。

n=191
Cap) 7割以上の自治体では具体的な対策が明記されていない。さらに「この数年の間に事業承継の課題を認識する機会があったが、施策に反映していない」と回答した自治体は45.0%と半数に迫った。また、総合政策に明記しながら施策に反映していない自治体も38市町村あった。

事業承継・引継ぎ支援センターとの連携や自治体内の支援体制

事業承継支援に取り組む自治体内の体制について、「担当者がいる」と回答した市町村は30.9%となっており、昨年度、東北地域で実施された同様の調査(「惜しまれながら廃業」のないまちへ。自治体職員向け事業承継支援ハンドブック P23参照)と比較して約10ポイント上回っています。地域内の関係団体との連携については、「協議会や連携協定などはないが情報共有をおこなっている」(53.4%)が最も高かった一方で、「連携していない」と回答している市町村が29.3%を占めており、東北地域の調査より10ポイント以上高くなっていることから、九州地域では、自治体が独自で取り組みを進める傾向にあるようです。

国の支援機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」との連携については、「積極的に連携している」あるいは「一定程度連携している」との回答が45.0%で、東北地域の調査での31.5%を大きく上回っています。しかし、55.0%にあたる105市町村は事業承継・引継ぎ支援センターと連携をしておらず、さらに、そのうち、地域の団体(商工会、商工会議所、農協、金融機関、企業、教育機関等)とも連携していないと回答したのは40市町村と38.1%にのぼります。このことから、地域内の支援体制が十分に構築されているとは言えない状況です。

n=191
合計で45.0%が「事業承継・引継ぎ支援センターと連携している」と回答したが、「認知はしているが連携していない」「認知していない」の合計は55.0%と連携している回答の合計を上回る結果となった

事業承継支援の取り組み状況

支援に関する予算の有無については73.3%が「予算化の予定はない」と回答しました。それに伴い、具体的な取り組みも、「「セミナー・相談会を実施していない」81.2%、「M&Aマッチングサービス等を利用していない」79.6%、「事業承継支援に関する専用のホームページを設けていない」77.5%、「地域内調査を実施していない」66.5%となっており、今後の具体的な支援が期待されます。

実施している支援の中で最も多かったのが「補助金の整備」で、独自の補助金制度(国・県の補助金との併用も含む)を設けている市町村は23.6%あり、そのうち実際に利用があったと回答したのは46.7%(21市町村)にとどまりました。この要因として、調査、啓発、広報、マッチング支援など、補助内容のニーズ調査や利用を促す施策等が行われていないことが推察されます。補助金が設けられた市町村のうち、専用ホームページを設けているのは37.8%(17市町村)、セミナー等を実施したのは24.4%(11市町村)、マッチングサービスを活用しているのは28.9%(13市町村)、調査を行ったのは24.4%(11市町村)、でした。補助金の利用実績があった市町村の71.4%は少なくともひとつに取り組んでいます。

n=191
実施している支援施策の中で最も多かったのは補助金の整備

支援機関と連携し、「地域が望まない廃業」を未然に防ぐ取り組みを

日本の中小事業者の約3割が、高齢化と後継者不在により廃業してしまうことが予見される2025年が目前に迫る中、九州地域の自治体においても事業承継課題が顕在化しているようです。しかし、課題を認識しながらも対策に取り組んでいる自治体は限られているのが現状です。その背景には、自治体のノウハウ、リソース不足があると考えられます。一方で、事業承継・引継ぎ支援センターや商工団体、金融機関等の支援機関によるサポート体制は整っており、それらと積極的に連携して、事業承継支援に取り組む自治体も現れています。地域の小規模事業は、地域の魅力、地域らしさの源泉でもあります。そういった地域の仕事が、後継者不足により、地域が望まない廃業が生じないように、支援機関と連携した自治体関与による事業承継支援の重要性が今後ますます高まるはずです。