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2024.01.23

事業承継における成功の鍵“後継者の教育”

「後継者が経営者になる」ことは、事業承継の本丸です。そのためには様々な要素が必要ですが、大きなポイントの一つとして「後継者の教育」があります。

本記事では、事業承継における後継者教育の重要性、類型、および具体的な方法についてご紹介します。

目次

1.事業承継は「駅伝のたすき渡し」

事業承継は、よく「駅伝のたすき渡し」に例えられますが、次の走者(後継者)がトレーニング不足(教育不足)では、息切れして止まってしまったり、コケてしまったりして、走り続けることができなくなります(事業が停滞してしまいます)。

そうならないためにも、経営者として必要な知識やスキルを伝える後継者の教育が重要です。

図表1 事業承継は「駅伝のたすき渡し」(イメージ)

では、経営者として必要な知見やスキルとはどのようなものでしょうか。若干異なる観点ではありますが、図表2から経営者が後継者を決定する上で最も重視した資質・能力として「自社の事業に関する専門知識」「自社の事業に関する実務経験」「社内外でのコミュニケーション能力」があることが分かります。また、「経営に対する意欲・覚悟」も比率として高くなっています。こうした知見やスキル、そして心構えこそが、後継者が習得すべきものといえるでしょう。

図表2 後継者を決定する上で重視した資質・能力

(出典:2019年度中小企業白書〔中小企業庁〕90ページから筆者作成)

2.後継者教育が重要な3つの理由

続いて、後継者教育が重要な理由を3つご紹介します。

①事業の存続可能性の向上

変化の激しい時代において、事業を持続的に発展させていくためには、上記のとおり様々な知識やスキルが必要です。また自社の理念、社風、強みをしっかりと把握し、これを踏まえた経営を行うことも重要です。これらは、時間が経てばある程度までは自然と身に付くものもありますが、無意識のままでは知識やスキルにムラができてしまい、思うような経営ができなくなる可能性もあるので、体系的かつ計画的に習得するのが望ましいです。

②リーダーシップの発揮

後継者は、先代にかわって組織を率いるリーダーです。メンバーが主体性を発揮し、組織に貢献してくれるためにも、後継者にはリーダーシップが求められます。

リーダーシップには、決断力、対応力、コミュニケーション力など、様々な要素がありますが、まずは経営知識と業務知識が基礎となり、それらを教育によって培うことができます。

③不安の払拭

中小企業白書によると「後継決定者が事業を継ぐにあたり懸念すること」の第1位は「自分の経営者としての資質の不足」だそうです(図表3)。その懸念は、実際に経営者になるまで解消されないとは思うのですが、唯一、軽減できる手段があるとするならば、それが後継者教育です。

図表3 後継決定者が事業を継ぐにあたり懸念すること

(出典:2019年版中小企業白書〔中小企業庁〕230ページ)

3.後継者教育に必要な期間

少し古いデータですが、中小機構が過去に行った調査によると、「後継者の育成は、承継予定時期の何年前から始めたほうがよいとお考えですか」の質問に対し、「2年超」という回答は全体の89.0%、「5年超」という回答は全体の63.4%を占めています(図表4)。このことからも、後継者教育は時間をかけて計画的に行っていく必要があると考えられます。

図表4 後継者育成の開始時期

(出典:事業承継実態調査報告書 〔平成23年3月 独立行政法人中小企業基盤整備機構〕51ページ)

4.後継者教育の類型

では実際に、どのような教育を行えばよいのでしょうか。後継者の教育は、社内教育と社外教育に大別されます。それぞれの教育方法について見ていきます。

①社内教育

企業内のリソースや専門知識を活かして後継者を教育する方法です。社内教育では、主に企業独自の文化や業務プロセスを効果的に伝達します。

具体的な方法として、「現経営者と後継者との事業についての対話」「自社の各部門のローテーション」「責任ある地位に就けて権限を委譲」などがあります。

②社外教育

企業外で知識・スキルを習得することや、経験を通じて後継者を育成する方法で、経営知識の他、コミュニケーション能力や人脈など様々な知見を得ることができます。具体的な方法としては、「中小機構が運営している中小企業大学校の研修や支援機関が実施しているセミナー等への参加」「他社勤務や子会社経営」などがあります。

社外教育は、新しい視点や専門的な知識を取り入れ、企業に新しいアイデアを持ち込む機会をつくります。セミナーやイベント情報は地域の支援機関で入手できるほか、J-Net21の支援情報ヘッドラインからも検索できます。

ただし、上記の全てを実施する必要はなく、会社の現状や後継者の状況を踏まえて選択し、計画的に実施することが肝要です。

5.中小企業大学校の後継者向け研修について

中小企業大学校では、社外教育の一助として、後継者の教育に役立つ研修を数多く提供しています。全国にある9か所のうち、東京校では「経営後継者研修を実施しています。この研修は、次代の経営者に必要な基本的能力や知識・経営意欲が得られる10ヶ月間全日制の研修です。徹底した自社分析とゼミ形式によるサポートで、自社と後継者自身の未来を描くことができます。

九州には九州校(福岡県福岡市)と人吉校(熊本県人吉市)があります。ここでは、1~3日間で組織マネジメント、財務管理、マーケティングなどの経営知識が学べるコースがあり、九州校では2024年度から18日間(3日×6ヵ月)で経営全体を学べる「次世代経営者養成コース」も開講予定です。これらの研修は、知識習得はもちろんのこと、後継者同士のヨコの繋がり(人脈形成)にも大いに役立ちます。

≪経営後継者研修(中小企業大学校東京校)≫

https://www.smrj.go.jp/institute/tokyo/training/sme/succession/index.html

≪中小企業大学校 九州校≫

https://www.smrj.go.jp/institute/nogata/index.html

≪中小企業大学校 人吉校≫

https://www.smrj.go.jp/institute/hitoyoshi/index.html

6.まとめ

事業承継において後継者の教育は、企業が持続的発展を続ける上で極めて重要です。適切な教育を経た後継者は、変化する環境に柔軟に対応し、企業の価値を守りながら新たな可能性を追求できるでしょう。

中小機構九州本部 中小企業アドバイザー
西元 知基 氏(にしもと ともき)
GENコンサルティング株式会社 代表取締役、中小企業診断士
清涼飲料水メーカーの勤務経験を経て、2010年に経営コンサルタントとして独立。民間企業、公的機関、金融機関等で年間50本以上の研修講師を行う一方、経営顧問や各種プロジェクト(経営改善、経営革新、事業承継、業務改善など)の幅広い支援経験を持つ(延べ支援数300社超)。「全ての人に元気をプレゼントする」という経営理念のもと、「信頼」「挑戦」「しなやかに強く」を行動指針として活動を続けている。