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地道なアプローチで花ひらく事業承継支援の輪。連携機関とともに取り組んだ豊岡市の歩み

コウノトリが悠然と舞う兵庫県豊岡市。関西随一の温泉郷「城崎温泉」、西日本屈指の「神鍋高原スキー場」、江戸の情緒を今に伝える「城下町・出石」など、食も自然もアートも伝統産業もそれぞれがぎゅっと一つに凝縮しているまち。それが豊岡だ。このまちで、地域に根付いた個性ある小規模事業者を残そうと、近年、事業承継支援にも注力している。2021年10月には豊岡市、但馬信用金庫、ココホレジャパン株式会社の3者が連携協定を結び、「継いでほしい人」と「継ぎたい人」をつなぐ「豊岡市継業バンク」を開設した。事業承継支援を本格化してから2年以上、まちに起こった変化や今後の課題について豊岡市役所環境経済課の福井亮介さんと雨森良太さんに話を伺った。

目次
継業バンクを担当する豊岡市役所環境経済課の雨森良太さん(左)と福井亮介さん(右)

デリケートな後継者課題

−豊岡市で行っている事業者支援について教えてください。

福井氏:豊岡市は2018年からスタートした基本構想に「内発型産業の育成」を掲げており、女性や若い方が失敗を恐れずに新たな事業に挑戦できるよう環境整備を行っています。2019年には外部専門家に事業計画や策定支援などのアドバイスを受けられるビジネス相談窓口「IPPO TOYOOKA(イッポ トヨオカ)」を設立しました。

また、事業承継については、「豊岡市創業・事業者支援ネットワーク」を通じて商工団体・金融機関等と連携し、セミナー等の啓発事業や個別相談といったことに取り組んできました。

しかし、事業承継は非常にデリケートな問題であることから、市としてどこまで関与すべきかベストな方法を模索していたんです。

協力機関と手を取り合って事業承継支援をスタート

環境経済課の窓口に置いてある継業バンクの案内チラシ
−そこからなぜ継業バンクを始めることに?

福井氏:「豊岡市創業・事業者支援ネットワーク」の構成機関のひとつである但馬信用金庫(本店:豊岡市)が継業バンクを提案してくださったのがきっかけです。普段から地元の事業者とつながりがある但馬信用金庫と協力すれば、一歩踏み込んだ支援ができるかもしれないと思いました。

−新しく取り組む事業承継支援の予算を確保するのは大変だったのではないでしょうか。このハードルはどのようにして乗り越えたのでしょう。

福井氏:2021年度、信金中央金庫(本店:東京都中央区)が創立70周年を記念して実施する「SCBふるさと応援団」に、但馬信用金庫の推薦を受けた本市の事業計画が採択され、企業版ふるさと納税として信金中央金庫から1,000万円をご寄附いただきました。この寄附金により、本市と但馬信用金庫が相互に連携し、事業承継や創業支援、移住定住の推進に向けた取り組みが進んでいきました。

「事業承継」のイメージをまちに浸透させる

地元にあるお店が廃業せず続いてくれることが嬉しいと語る雨森さん
−豊岡市では継業バンクを通じて3件の事業譲渡が成約したそうですね。

雨森氏:はい。成約した3件はいずれも継業バンクに登録していなければ廃業していた可能性が高い事業者でした。成約に至った事業者(譲り手)とお話する中で「私たちの思いを汲んで、長年続けてきたものを守ってくれると思えたから勇気を出して譲ることができた」といった言葉をいただくことがありました。継ぎ手と言っても誰でも良いということではなく、譲り手の想いもご理解いただいたうえで事業を継いでくれる方を紹介し、両者が気持ちよくマッチングできるようサポートするのも私たちの仕事だと感じています。

−成功事例ができたことで、ポジティブな影響もあったのだとか。

福井氏:最初はこちらから働きかけることが多かったのですが、廃業を考えている事業者からの問い合わせや、市民の方から廃業しそうな事業者について教えてもらうことも増えてきました。また、ヒアリングをしたことで継業バンクに掲載はしないけど別の形で事業承継に向けて動き出そうとする事業者もいて、まち全体で少しずつ事業承継の輪が広がっているのを実感します。

−事業承継支援を本格化して約2年、振り返ってみていかがでしょうか。

雨森氏:2021年10月に豊岡市継業バンクを開設し、何もしなければ消えてしまうはずだった地域の生業の灯火を守ることができました。継業バンクの取組みにおいて連携協定を結んだ但馬信用金庫、ココホレジャパン株式会社が伴走しながらサポートしてくれたことはとても心強かったです。行政として事業承継に対するノウハウが少なくても、金融機関や民間企業と手を取り合いながらサポートできる体制が整えられたことで、今後の後継者課題を解決するための大きな一歩になったと思います。

豊岡市の事業承継支援のこれから

継業バンクに関する問い合わせ対応は窓口でも行っている
−今後の課題についても教えてください。

福井氏:事業者をどれだけ早い段階で掘り起こせるかが課題です。後継者に困っている事業者はたくさんいると思いますが、私たちが発見したときには、すでに廃業の手続きが済んでいたり、機材などの経営資源が処分されていたりと、手遅れなケースもあります。そんな事業者を1件でも減らすため、廃業を検討する事業者に対し、いかに早くアプローチすることができるかが事業承継支援の鍵だと考えています。

−今後、新しくチャレンジしたいことはありますか?

雨森氏:他部署との連携強化を図っていきたいです。継いだ人の暮らしに関わる移住定住の担当係や、観光や農林水産業など地域の特徴的な産業に関わる他部署との連携を強化することで、今まで以上に広い範囲で事業承継支援が行えるのではないかと考えています。

「豊岡稽古堂」。1927年に豊岡市役所庁舎として竣工。現在は、市民の憩いの場(2階は議場)として親しまれている

継ぐモノへのメッセージ

−豊岡市と同じように事業承継の課題を抱える自治体に向けてメッセージをお願いします。

福井氏:私たちは、お互いの強みを活かして協力しあえるサポーターに出会えたことで、スムーズに事業承継支援に踏み出すことができました。もし地域の事業承継支援に課題を感じているなら、まちの協力機関を巻き込みながら一歩を踏み出してみてください。

(取材・編集:2023年10月12日) 

豊岡市コウノトリ共生部 環境経済課 経済政策係 主任
福井 亮介氏
2015年に豊岡市へ入庁。市民課(現 窓口サービス課)、社会福祉課福祉監査室を経て環境経済課へ異動。商工団体等の支援業務を担当した後、2022年から事業承継支援を担当する。
豊岡市コウノトリ共生部 環境経済課 経済政策係 主査
雨森 良太氏
2002年1月に豊岡市(旧出石町)へ入庁。合併前の出石町役場では教育委員会に所属。合併後、国体推進課、こども教育課、税務課、エコバレー推進課(環境経済課の前身)を経て、経済産業省中小企業庁へ出向。2020年4月より環境経済課において、環境経済事業、内発型産業の育成に関する業務を担当。但馬信用金庫と連携した創業イベント(豊岡地域クラウド交流会)や豊岡市継業バンクの立上げに関わる。